2021年12月29日水曜日

PBPクレームの簡単な解説+答案形式の例(R4/05/10追記)

 特許法の勉強でProduct by Process Claimの概念について後輩からも質問をもらうことが多く、自分もあまり自信のないところだったため、一度整理してみました。

 PBPクレームは答案にどう落とせば良いのか、という点が更に寄せられた際に作った答案例がありますので、追記します。


(答案用の簡潔なまとめ

PBPクレームとは、特許が物の発明についてされている場合において、特許請求の範囲にその物の製造方法の記載があるものを指す[1]が、あくまで方法の発明ではなく、物の発明であるため、クレーム記載の製造方法によらないものであっても、物として同一の範囲であれば同一の発明と解されるため、特許権侵害となる。

(解説)

PBPクレームは「方法の発明」ではなく、「物の発明」である。そうであれば、製法が異なったとしても同じものができれば「特許の実施」にあたるというのが簡単な流れである(判例:物同一説[2])。一方で、PBPクレームは例えば以下のような形で記載される。

(請求項1)

ミルクと、コーヒー抽出液とを混合させた、該コーヒー抽出液は乾燥させ焙煎したコーヒーノキの種子を0.5mm0.2mmに挽いた粉に80℃~100℃のお湯をかけて水溶性の成分を抽出して得ることを特徴とする飲用に用いられる液体A

→液体A(コーヒー)の特徴が「コーヒー粉にお湯をかけて抽出した液体」という製造方法で特定されているPBPクレームである。この特許で特許権者はミルクとコーヒーを混ぜた液体Aについて特許を取ることができるので、水出しコーヒーを使っても、恐らくカフェ・ラテだろうがフラットホワイトだろうが[3]、この特許の範囲となる。

このように、PBPクレームという存在自体「製法が物のどのような構造又は特性を表しているのか、物の発明であってもその製法に限定しているのが不明確」という性質を帯びるため、原則として明確性要件違反(36-6-2)であるから、PBPクレームの特許登録はそもそも許されない。

しかし、最高裁は明確性要件を満たすPBPクレームにつき、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる」として、例外を許容した。この最判以降、答案戦略上はこれがPBPクレームの登録要件のように扱われるようになった(と思う)。


<答案例>(特許法は省略)

Xは、特許請求の範囲を「液体αを液体βを1:3で混合し、10日間乾燥させたのち、セ氏180℃で5分間加熱することによって得られる物質γ」とする特許権Pの特許権者であり、業として特許発明を実施する権利を専有する(68条)。Yは、物質γを業として製造し、販売していることから、Xは、Yに対し、Pの侵害を理由として差止請求(100)及び、損害賠償請求(民709)をすることが考えられる。

Yは、上記Xの主張に対し①Yが製造するγはPのクレームに記載された製造方法とは異なる方法で製造されており、特許権Pを侵害していないこと、及び、②Pのクレームが明確性要件を欠くため無効要件があり、Pについて特許権を行使できないという反論が考えられる。順に検討する。

まず、①について

本件のような「物の発明」でありながら製造方法によって物を特定するクレームの書き方はいわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレームであり、その製造方法がクレームの中に記載されているものの、それは製造方法によってしか当該物の特徴を記載することができず、その物理的構造や性質によって特定できない場合に用いられる。PBPクレームは、あくまで「物の発明」であって、「方法の発明」ではないところ、その効力はクレームに記載された製造方法にかかわらず、当該物全てに及ぶ。

~あてはめ~(省略)

以上より、特許権Pの効力は、Yの製造するγにも及ぶ。

そして、Yのは業として、γの製造、販売を行っており、特許発明を実施(2-3-1)しているといえ、Yの行為はPの直接侵害にあたる。

次に、②について

特許出願の際提出する特許請求の範囲の記載は、明確でなければならず(36-1/36-2/36-6-2)、明確でない場合特許無効事由となる(123-1-4)。また、特許無効事由がある場合、本来特許無効審判を請求することとなるが、特許の無効まで争いたいわけではなく、Yとしては損害賠償請求や差止請求を回避すれば良いところ、特許無効審判請求を経由することは迂遠かつ負担が大きい。よって、特許無効事由が存在する場合、特許権者は相手方に対し特許権を行使できないという特許無効の抗弁(104の3-1)がある。

PBPクレームの明確性について、そもそもPBPクレーム自体、その物の物理的構造や特性によって物を特定することが困難か、不可能であるときに限って認められるものであるところ、そのような事情が存在する場合には、明確性要件を満たしているといえる。



[1] 最判H27/Jun./05

[2] 学説としてPBPクレームと同一の製法に限定して解釈すべきという「製法限定説」があるが、明確に最高裁は物同一説を採る1ため、あえて製法限定説を採る必要はない

[3] PBPクレームで指定されたコーヒーの淹れ方はドリップコーヒーであり、出来上がるのは「カフェ・オレ」だが、フラットホワイトとカフェラテはどちらもエスプレッソを用いる。エスプレッソは圧をかけて高温の湯で短時間で抽出する、という点でハンドドリップと区別されるが、本件ではあえてどちらも含むように操作した請求項を立てた