2022年4月30日土曜日

均等侵害の答案構成

均等侵害の答案構成例です。侵害者Y、特許権者X、特許権P、侵害製品の製品名Y1、特許製品名X1、とします。


XはYに対して、自己が有する特許権Pを侵害するとして、Y1の販売の差止請求(100)ができるか。

(1)侵害行為

Xは、特許権Pの特許権者であるから(特許権について争いはないとする)、その実施品たるX1について、業として実施する権利を専有する(68)。特許権Pの特許請求の範囲(36-5)には、「~~~~~」という構成要件Aが含まれる。そして、Yは「~~~~~」のみを交換したY1を販売しており、「業として特許発明の実施」(68/2-3-1)をしたとして、特許権Pを侵害したという主張があり得る。

(i) Y1の「~~~~~」が全く同じ互換部品である場合

このとき、Y1はすべての構成要件においてX1と一致し、Y1の販売は文言直接侵害となる。

(ii) Y1の「~~~~~」が「~~~~!」である場合(均等侵害)

特許出願時において、あらゆる侵害形態を想定してクレームを記載することは現実的でなく、ごく僅かな相違によって特許権侵害が否定されるのであれば、特許権者の保護に欠ける。一方で、クレームから予測できない範囲にまで無限定に拡大すると類似の技術を全く利用できなくなってしまうため、クレーム内容と実質的に同一の範囲の技術に限定して侵害を認める限りにおいて、第三者の予測可能性を害さないことから、保護範囲に含める。

以上より、①相違する構成要件が発明の本質的部分でなく、②相違部分を対象製品におけるものに置き換えても特許発明の目的を達し、かつ同一の作用効果を奏し、③当業者にとって、対象製品の製造時に容易に想到できるものであって、④侵害製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一または公知技術から容易に想到できたものではなく、⑤侵害製品が特許出願手続きにおいて意図的に範囲から除外されたものであるなど特段の事情がないとき、侵害製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属すると解する。

<簡単な整理>

①非本質的部分の要件。発明のコアを入れ替えればさすがに別物でしょう、ということ

②置換可能性要件。これも入れ替えたら本来の機能を果たさないようなものであれば別物。

③容易想到性要件。入れ替えること自体が発明レベルの置き換えなら別物。

④X1が無かったとして、Y1がX1出願時に代わりに出願されていれば特許が取れるようなものであったか、というイメージ。あるいは、X1がなくてもY1を同業者ならだれでも簡単に思いつけるようなものであったか、ということ。

⑤file wrapper estoppel(包袋禁反言)のような話。あえて外したものを保護するのは話が違う。

<以上>


(2) 反論(消尽)

(ア)規範

PはXがX1を販売したことにより消尽し、最早PによってY1製品の差止請求は認められないという主張が考えられる。

消尽について、明文で規定されていないためその根拠が問題となるが、特許製品の円滑な流通保護と、特許権者は自らによる販売に加え再流通からも利益を得る必要はないという点から、特許権者によって適法に流通に置かれた真正製品については、特許権が消尽し、その後の流通、譲渡について特許権の行使はできないものである。

消尽が認められるとすると、本件(文言直接侵害/均等侵害/均等侵害不成立の3パターンを考える)でも特許権Pは消尽したといえ、Y1製品の差止は認められないという結論にみえる。

しかし、上記消尽の根拠からして、侵害製品が当該特許製品と同一性を欠くような、「新たな製造」といえる場合には、特許権者による新たな販売を阻害するから、消尽を認めない。具体的には、①当該特許製品の属性、②特許発明の内容、③部材交換の態様、④取引の実情等の総合考慮において、実質的に「新たな製造」といえるかを判断する。

(イ)あてはめ

①について、もとから(社外品でないにせよ)交換が予定されている部品であるか。②について、別の製品と呼べるほど重大な部品を交換していないか。特に、本問のように均等侵害とセットになる場合は均等侵害の成否と原則一致させるほうが矛盾がない。あえて違う方向にする場合はよほどの根拠があるときに限る。③その交換が通常想定され、かつそれによって特許製品の耐用年数が特に伸びたりしていないか。④「写ルンです事件」との整合性から、一般に消耗部分を入れ替えて使うことを想定せず、消耗品とともに廃棄することが通常である製品ではないか。

以上の基準で事実を配置し、判断する。

(ウ)別パターン・「再利用禁止の文言」

再利用を禁止する表示を行っていた場合、消尽との関係で効力があるか。このような特約(や表示)がある場合でも、特許権者は特許製品を流通においた時点でその対価を回収する機会が与えられており、重ねて次の流通を制限することは許されないと考えられるから、消尽の趣旨はなお及び、消尽が適用されるべきである。なお、その「再利用禁止の文言」によって再利用を禁止する目的が特許権侵害による経済的損失を防止する目的でなく、当該特許製品の性質に基づくものである場合(衛生面など)であっても、特許法において規制される性質のものではなく、民法上の問題として扱われるべきものであるため、消尽の適用如何を左右するものではない。


以上

2022年4月28日木曜日

著作権法ー侵害主体論

著作権法の論文試験において、問題となる箇所は①著作物性、②著作権者(職務著作、共同著作、権利譲渡)、③侵害主体、④侵害と救済、⑤各支分権、⑥著作者人格権、が主だったところかと思います。著作隣接権については実務上重要ではあるものの、学術的に大きな論点が転がっている分野でもないので、学部や法科大学院でもあまり深掘りはされない印象です。

今回は、侵害主体論について簡単に整理します。

著作権法の問題においてはまず①著作物性を認定、あるいは争いますが、結局ここで著作物性なし、としてしまうとそこで議論は終わってしまうので答案上(複数の対象が考えられる場合を除いて)認定しないことはメタ的に可能性が低くなります。なので、例えばブループリントから生成した建築物やそのフィギュアに著作権が及ぶか、といった特殊な場合を除き、割と簡単に認定して終わりということが多いです。ここで引っかかる場合は多くが応用美術か建築関係でしょう。

次に、②著作権者を認定します。ここは既に列挙したように、職務著作、共同著作、権利譲渡があった場合に特に問題となります。他のパターンとしては著作物性が問題となった挙げ句、著作権が更に及ぶかが問題となるブループリントのパターンなどでしょうか。いずれにせよ、重要な論点ではありますが、形式的に処理しやすい論点です。

そして③侵害主体について。これは今回の主題ですので、後述します。

④侵害と救済については、まず侵害があったことを認定します。その際に、⑤各支分権、⑥著作者人格権のどこをどう侵害したのか、ということを丁寧に論じ、②著作権者の①著作物の⑤~~権/⑥~~権を③侵害主体が④侵害したので、④こういった救済が可能という形に流します。本丸はここにあることが多いでしょうし、論点的に比重を置かない場合であっても、必然的に分量は多くなる場所です。

このように、著作権法の答案の流れの中で位置づけられる③侵害主体論は、個人的に特に重要な分野だと考えています。というのも、事案から侵害主体が簡単に特定できない場合があるからです。特に、昨今の通信技術の発展によって侵害主体が誰だかわからなくなるケースが増加しており、若手の研究者が多く、テック系の話題にも明るい(これは偏見かもわかりませんが、少なくとも師事した先生方は比較的お若い先生が多かったです)知財法分野の特性上、狙われる可能性が高いと考えられます。試験対策というメタ視点を離れたとしても、判例も積み重なってきている重要分野であることは間違いありませんので、一度整理したいと思います。


前置きが長くなりましたが、以下侵害主体論についての整理です。

一番シンプルな形は、支分権相当行為を行う者が侵害行為の主体となるものです。演奏した人、コピーした人が対象です。これで処理できない場合が問題で、①手足論、②カラオケ法理、③規範的行為主体/枢要行為論、④間接侵害の4パターンが存在します(枢要行為論は規範的行為主体ではなく物理的行為主体だという説もありますが)。

①手足論

単純な形でいえば、社長が秘書に命じて書籍をコピーさせた場合。これは、秘書が物理的に侵害を行っていますが、秘書はページを指定したわけでもなく、自分のためにコピーしたのでもなく、直接そこから利益を得たのでもありませんから、完全に社長の命令によって社長のために、「手足として」複製行為を行ったといえます。この場合、侵害主体は秘書ではなく社長であるとする、これが手足論です。

②カラオケ法理

クラブキャッツアイ事件以来(物理的な)侵害行為者を手足論で決めることが適切でない場合に適用されてきた理論です。これは、カラオケスナックのように、客が曲を指定し、歌うような場合、直接的な侵害者は当然客であるにも関わらず、全体としてその場を支配し、そこから利益を得ている管理者たるスナック側が侵害者であるとするものです。判断基準はⅠ管理・支配性、Ⅱ営業上の利益の帰属であり、店は雰囲気の醸成による集客効果で営業利益を得ていることから、特に侵害者を店側とすることが適切であると判断したことによります。

③規範的行為主体/枢要行為論

カラオケ法理に長年支配されてきた我が国の侵害主体論ですが、ロクラクⅡ事件を機に枢要行為論が勢力を増しました。

ロクラクⅡ事件の概要:テレビ放送を録画する親機と、親機を遠隔操作し、親機で録画した映像をネット経由で受信して視聴できる子機からなる製品「ロクラクⅡ」という製品があります。親機は事業者から貸与され、事業者の手元でアンテナ線に繋がれ、子機は利用者に貸与または販売され、利用者が操作する、という形で利用するものです。この機器の使用によってテレビ放送を複製したものは誰か、という問題が起きました。この点につき、全体として複製行為を見たとき、複製に必要不可欠な「枢要行為」を行っているのは誰かという観点から、複製の枢要行為は機器にアンテナ線を接続し、テレビ放送波を入力することだと認定して、事業者こそが侵害主体であるとしました。

かなり学説から批判を浴びている理論で、複製の対象やタイミングを指定するのは利用者であるから、それこそが「枢要行為」であるとするあてはめの違いで真逆の方向へ行く考えもあります。答案上はあてはめで真逆にしても大きな問題は無いと思いますので、自分が何を「枢要行為」としたのかさえきちんと書けば良いと思います。

さて、このようにして誕生した枢要行為論ですが、その後もまねきTV事件で踏襲され(ほぼ同時期のため「枢要行為」という言葉は出ていませんし、ロクラクを見て書いたかはわかりませんが)、現在も維持されていると考えられます。結局、カラオケ法理を判例が捨てて枢要行為論に完全に移行したというわけでもなく、枢要行為論はカラオケ法理の拡張であって、Ⅰ管理支配性、Ⅱ利益の帰属というカラオケ法理の判断基準に修正を加え、Ⅰ管理支配性において半分利用者側が管理していたり、まねきTVに至っては完全買い取りなので所有権が利用者にあること、そしてⅡ利益の帰属についても、サービス提供の対価は当然事業者が受領するものの、そこから雰囲気の醸成や集客といったカラオケ法理の依拠した効果は全く生まれません。そんな場合であっても、Ⅲ枢要行為を担っている者こそが侵害主体である、という基準によって、侵害主体を「著作物を楽しむ人」から引き剥がすことが可能であるとしたものであります。

ここまで述べてきた枢要行為論ですが、平成26年(まねきTV事件がH23)に自炊代行事件の判決が下ります。いわゆる電子書籍の自炊、すなわち利用者が紙の本を購入し、代行業者に渡し、業者は断裁のうえスキャンし、利用者にデータをpdf等のファイルとして戻すという行為が行われました。この行為における複製権の侵害者は誰でしょう。

枢要行為論で見てきたところによると、本を選び、買ったのが利用者、複製を実際に行い、(紙のスキャン)データを入力し、ファイルに出力したのは業者、コンテンツを楽しむのは利用者であって、自炊に必要不可欠な行為たる断裁~スキャン~書き出しを行っているのは業者であるから、侵害者は業者といえそうです。しかし、知財高裁は手足論、規範的行為主体論の存在を認めつつも、手足論レベルで事業者が侵害主体であると認めて終わります。原審では枢要行為論にもとづいて判断しているにも関わらず。

これについては「枢要行為論を捨てたか」という見方もできましょうが、どうやらそうではなく、手足論で十分、当然これは事業者が侵害主体だという判断があったからのようです。仮に枢要行為論を採用したとしても、結論に変わりはありませんから、あまり悩まず枢要行為論を取ってしまっても間違いとは言えないと思います。


④間接侵害

まず、間接侵害の条文は特許法と異なり著作権法にはありません。なので、仮に間接侵害を認める場合は112条1項「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」の解釈の中に間接侵害者を含めるという類推適用をすることになります。

これについては「ヒットワン事件」と「選撮見録事件」が判例としてあります。

まず、ヒットワン事件とは、スナック等にカラオケ機器をリースする業者に対する販売差止請求を認めたものになります(このリース業者はJASRACと契約していませんでした)。カラオケ法理から、客がその機器を使って歌った場合の侵害者はスナックになることは前述の通りで、本判決も同様の判断をしました。その上で、更に販売を差し止められるか、ということが争点となりました。

というのも、カラオケ機器のリース業者は侵害者ではありませんから、差止請求の対象となる「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」でもないことになります。この判決ではその解釈の中に「侵害を幇助するもの」であって、

〔1〕幇助者による幇助行為の内容・性質

〔2〕現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度

〔3〕幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等

を総合して判断して、侵害主体に準じる者として評価できる場合、「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に含まれるという解釈を示しました。(ここでは類推適用ではありません、解釈て含まれるという判断です)


次に、選撮見録事件です。通販番組で昼下がりになんと2台でお値段変わらず売ってそうなネーミングですね、これでよりどりみどりと読みます。こちらは類推適用で処理しました。

これはロクラク等に似た機械ですが、集合住宅に1台の親機を設置、その親機に管理組合などがアンテナ線を接続します。すると、親機は所謂全録をして、各戸に置いた子機でその番組を1週間以内好きなときに呼び出して視聴できる仕組みになっています。この機械を販売した業者に大阪民放5社が差止を求めて訴えたという事件です。TVO(TXN系列)も参加したんですね。大阪ならKBSとかSUNとかWTVあたり映りそうなもんですが、神戸市でもTVOスピルオーバーしてますし。

さて、この事件では、侵害主体につき(変形ですが)ロクラクⅡ、まねきTV事件と同じく親機管理・信号入力者である管理組合としました。これは納得ですね。その上で、利用者は入居者であり、不特定多数、ないし特定多数であるといえますから、親機は公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する(30-1-1)機器であるとして、送信可能化権を侵害するものであると認定しました(支分権でまとめますが、こうなると私的使用での正当化が不可となります)。

本題の間接侵害論について、当該機器の販売によってほぼ必然的に送信可能化権の侵害は発生することが明らかであり(正常に稼働すれば当然に侵害する)、販売を差し止めることは販売事業者への差止請求を認めるだけなので簡単な一方、利用者や侵害者をすべて特定し差止請求をすることは現実的でない上に、業者は当該機器の販売を差止められるのに対してテレビ番組の全録が導入された団地全てで開始されることによる被侵害利益の比較衡量によって、業者は112-1を類推適用して「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者(=ここでは管理組合)」と同視できるとして、差止請求を認めました。


結局、この2つの事件は類推適用なのか、それとも「含まれる」とするのかに違いはあれど、ほぼ同様の考えで著作権侵害を必然的に起こす機器の販売を差し止めさせたものになります。実質的な理由としては選撮見録事件にあらわれた「元を叩くのは楽、購入者を叩くのはダルい」ということにあり、その正当化としてこの長々とした理屈が生まれたのだと思います。

ともあれ、差止請求の場合に限って間接侵害類似の考え方が出現するといえましょう。


その他の重要判例として2ch事件など取り上げたいと思いますので、また追記します。

2022年4月27日水曜日

特許法における発明について~①自然法則利用性

 特許法の勉強をするにあたって、複数種類の「発明」が出てきます。今回はそれを簡単に整理しておきましょう。今回は発明の要件のうち自然法則利用性について整理します。


そもそも発明とはなにか

発明とは、特許法2条1項から、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうとされ、そのまま①自然法則利用性、②技術的思想性、③創作性、④高度性が要件とされています。ただし、これらの要件についてきっちりと区別して当てはめを行うことは実益に乏しいといわれています。

①自然法則利用性

自然法則に基づいて動くコンピュータを利用したプログラムでも認めよう、バイオテクノロジーも保護に値するという価値判断が先行し、ある意味「自然法則そのもの」という本来特許として認められないであろうものでも保護する、というふうに本来の定義からは乖離してきていることも事実です。

実際の判断にあたっては、物理法則や数学的な法則(相対性理論とか、三平方の定理とか)、自然法則に反するもの(永久機関など)、人為的取りきめ(ゲームルール)、経済法則(株価予測など)を除外するに限られることとなります。経済法則もあるところまで行くと自然法則のようにも思えてきますし(神の見えざる手とか、コンドラチェフの波とか)、前述のように自然法則そのものといえばそのものであるバイオテクノロジー関係(鯉に特定の餌を与えて発色を調整する方法や、特定のウイルスにある物質を添加すると狙った動作をするとか)は発明にしよう、という話があるので厳密に考えると難しいです。

判決で限界例となっているもの:

人為的取りきめについて

①切り取り線付き薬袋(自然法則利用性肯定)(なお、進歩性要件不充足で結局拒絶されている)

問題となった物は、薬袋が切り取り線で上下に分かれていて、上側に氏名等の個人情報が印刷され、下部に薬の内容が印刷された上、薬が封入されます。これによって上下で切り離せば捨てたときや落としたときでも、氏名と薬の内容(疾患が特定される可能性もある)が紐づけられることを防げる、というものです。

この袋を利用するにあたって、袋に種々の情報を印刷するのは調剤薬局、上下をちぎって利用するのは患者です。すなわち、これら2つの行為は人によって行われ、「人に対して利用方法を指定している」ルールに過ぎないため、自然法則利用性がないのではないか、ということが問題となりました。本件について、知財高裁は一部に自然法則利用性がないものが含まれていても、全体として自然法則利用性があれば足りるという規範を提示しました。

あてはめにおいて、この単純方法の発明では、切り取り線の上下にそれぞれ情報を印刷し、利用時に切り離すことで個人情報保護という課題を解決する方法という特許であるので、その全体として自然法則を利用しているといえ、一部を人が行っていても良いという判断を示しました。

この判決で学ぶべきは「一部に自然法則利用性がないものが含まれていても、全体として自然法則利用性があれば足りる」という規範であって、正直全体として自然法則利用性があるかの判断は未だに納得できていないのですが、前述のように自然法則利用性の範囲は(異常なまでに)拡張されているので、明らかにダメなやつを除いては利用性があると考えておくほうが良いように思います。でないと深淵にハマります。

②暗記用学習教材

この判決の逆のような判決もあり、暗記用学習教材事件において、一部に自然法則を利用していても、全体としてみると人為的取りきめに過ぎないとして認めなかったものです。この判決はより分かりやすく判断の指針を与えてくれていて、「「発明」といえるか否かは,前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべき」と示しました。

この教材は、虫食い式の暗記教材の一種で、例えば「兵庫県神戸市」という文字列から「兵庫県○戸市」と「兵○県神戸市」という2つの虫食い文字列を作って解くことで、従来の虫食い式では虫食いをしていない部分(前者では兵庫県の部分)の記憶が薄れがちという課題を解決するという、暗記学習の教材(物の発明)及びその製造方法でした。

しかし、裁判所はこれについて「本願発明の技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討」した結果、「暗記学習用教材という媒体に表示される暗記学習用虫食い文字列の表示形態及び暗記学習の対象となる文字列自体を課題を解決するための技術的手段の構成とし,これにより,文字列全体の文脈に注意を向けた暗記学習を効率よく行うことができるという効果を奏するとするものである。そうすると,本願発明の技術的意義は,暗記学習用教材という媒体に表示された暗記すべき事項の暗記学習の方法そのものにあるといえるから,本願発明の本質は,専ら人の精神活動そのものに向けられたものであると認められる。したがって,本願発明は,その本質が専ら人の精神活動そのものに向けられているものであり,自然界の現象や秩序について成立している科学的法則,あるいは,これを利用するものではないから,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しない。」

としました。まとめると、本教材の意義を「暗記学習用の方法」であるとし、本質は「人の精神活動そのもの」に向けられているため、自然法則利用性がないとしました。


③(特許登録)復習タイミング付箋

そんな中、つい最近復習タイミングを教えてくれる付箋(神戸新聞より) が特許取れたらしいんです。どんなものかはリンク先を参照していただくとして、復習して記憶の定着をするなんて精神活動そのものに向けられた、反復学習用の方法じゃないですか?その上、ご丁寧に学習者が切り取るというルール工程も含まれています。総復習のような特許ですね。

これが仮に裁判になれば覆る可能性もあるとはいえ、暗記用学習教材を否定、薬袋を肯定、付箋を肯定、とすることが同時に成り立つと考えると、以下のような改良で暗記用学習教材も特許取得が可能になるように思います。

科学的知見に基づき3文字目と7文字目を穴あけすると暗記に良い(そんな研究と事実があるとして)ことを利用して機械的にその部分を穴あけして暗記用に提示するパンチカード様窓あき用紙と平文を印刷するテンプレート用紙からなる暗記用学習教材

これだったら特許が取れたかもしれないですね。ともあれ、これを答案戦略上活かすとすれば、・人為的取りきめが工程に含まれる場合でもOKであると触れる ・全体として精神活動に向けられているかの判断は難しく、基準も明確でない上、論文試験の中でそこまでの判断をさせることは考えにくいので、ごまかしつつ総合考慮したらOKでした!と書いておく という感じでしょうか。

2022年4月25日月曜日

表現の自由ー手段規制の書き方

一般的に、表現の自由は重要な権利利益であって、精神的自由に属する(判例は二重の基準論を取っていないという説もあるが、いずれにせよ表現の自由が最上級の保護を与えられている権利であることは争いがないだろう)ため、保護の必要性は高い。一方で、憲法21条1項も表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉による、必要かつ合理的な制約を受けることはあり、「思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害することは許されない」(最三小判S59/12/18刑集38-12-3026・最二小判H20/04/11刑集62-5-1217)

本件(立川宿舎ビラ投函事件最二小判H20/04/11刑集62-5-1217)では、表現そのものではなく表現の手段に対する規制であり、表現そのものを処罰することの憲法適合性の判断とは異なって然るべきであり、それは表現の手段に対する規制である場合、権利侵害を伴わない代替的伝達経路がなお残されている可能性があることによる。

本件は防衛庁(立川宿舎ビラ投函事件原文ママ)の職員……が私的生活を営む集合住宅の共用部分及び敷地であり、……一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。そういった場所に立ち入ることは表現の自由の行使のためであっても権利者の管理権、及び生活を営んでいる者の私生活の平穏を侵害するものであって、表現の自由の要保護性との比較衡量において許されるものとはいえない。(よって憲法21-1で保護される表現の自由に含まれるビラ投函のための敷地内立入りを刑法130条前段(住居侵入罪)で取ることは憲法21-1に反することなく、許される)

→立川ビラ事件では殊更に「私的領域を侵害されない」こととの比較を丁寧に行っており、逆に考えるといわゆる「パブリック・フォーラム」や誰しも外から投函できる集合ポストといった場所における同様のビラ配布行為では表現の自由が勝つことが考えられる。












2022年4月23日土曜日

【時事ネタ】サミットの天ぷら転倒事件

 2022年4月22日(までに)、「サミット天ぷら転倒事件」の上告が棄却されることが確定しました。

ニュースソース

時事通信社:天ぷら踏み転倒、客敗訴確定=スーパーのサミット―最高裁


怪我の程度も右膝の損傷で、既に店側からお詫びとして6万円を受け取っているとのことですが、その上で最高裁まで上がること自体、そして相手方がサミットという大きなスーパーだったという点に注目が集まる事件だったと言えるでしょう。

ともあれ、本件を法律的に整理してみます。本件は、民法709条に基づく損害賠償請求事件です。709条に基づく損害賠償を認めるには、①故意または過失 ②法益侵害 ③因果関係 が必要となるところ、上告人は怪我が生じており、身体に対する法益侵害があります。また、因果関係についても、サミットが床に天ぷらを放置した行為によって直接に生じたものであるから、認められます。問題となるのは①過失(もちろん故意ではないでしょう)の認定です。

過失を更に分解すると、前提として発生の可能性を認識できたかという「予見可能性」が要求され、その上で損害が発生することの予期(予見義務)と、それを怠ったこと(結果回避義務)で認定することになります。

本件では、これを一審で認め、「従業員が安全確認を徹底し、床に物が落ちたままにしないようにする義務を負っていた」としました。店内に危険なものが落下している可能性はあって、それは通常起こりうることなのだから、床を常時清掃しておくべきだったのに、それを怠ったと判断したのです。

一方、高裁では「レジ前で転倒事故が起きることを想定して、従業員を巡回させるなどの措置を取る義務があったとは認められない」として否定しました。確かに一審の言うことももっともですが、床に天ぷらが落ちていて、それを客が踏んで転倒することまで考えて頻繁に見回りをさせることまでは求められないという判断です。

なお、予見可能性については確かにスーパーの売り場床に落ちている天ぷらを発見することが不可能だったとはいえないでしょうから、前提はクリアしています。



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2022年4月19日火曜日

刑事訴訟法 復習用イッキ見(作成中)

全体注:枝番に意味はなく、単に番号を振った後に論点を追加したものである。


1.       警職法2-1(停止させて)

職務質問の効果を挙げるために必要な程度の有形力の行使は許される。もっとも、強制捜査にあたる行為、すなわち「法律によらなければ許されないような強制手段」は用いることができず、職務質問の目的、必要性、緊急性から具体的状況の下で相当と認められる限度で許容される。

e.g. 酒気帯び運転の疑いがある者に対して職務質問中、逃げようとしたところを運転席の窓から手を差し入れ、キーを回して抜き取った行為→警職法2-1にいう職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当であり、交通の危険の発生防止に対しても緊急で行われるべきであるから適法

e.g. 覚醒剤使用の嫌疑を抱き、エンジンキーを取り上げる等して道路上に6時間留めおいた(その後令状に基づき強制採尿を行い……と続く)行為。→職務質問開始時に既に覚醒剤使用の嫌疑(異常な言動がみられている)があったほか、自動車を発進させて移動しようとした者に対して、エンジンキーを取り上げた行為は、その程度として車での移動を阻止したに過ぎず、さほど強い有形力の行使とはいえないから、職務質問を行うため「必要かつ相当」なものであり、交通の危険の発生防止に対し必要な応急の措置である。なお、6時間留めおいた行為については、覚醒剤使用の嫌疑が濃厚になっていたとしても、任意同行を求める手段として限度を超えており、移動の自由を著しく侵害していることから、任意捜査として許容される範囲を逸脱し、違法というべき<注:ここでは「任意捜査」であり、「任意捜査の限界を超えて違法」というロジック。強制捜査(実質的逮捕)だとするなら比例原則の話をした時点でアウト>である。しかし、前述のように適法な職務質問によって留めおかれ、その時間において長すぎたとしても、覚醒剤により異常な言動をしている者が自動車で離脱しようとしているという状況において、結果的に長時間に及ぶ説得となったことは致し方ないというべきであり、長時間の留めおきに至り違法ではあるが、令状主義の精神を没却するほど重大とまではいえない。

e.g. ラブホに一人で泊まっていた者が、ホテル側の声掛けに対し異常な言動を繰り返したことから何らかの薬物の使用の嫌疑を抱き、警察官らが戸を叩き声をかけたが反応がなかったため、鍵のかかっていないドアを開けたところ、ドアを閉めようとしたため警察官らが足を差し入れ閉扉を阻止、殴りかかってきた者の右腕を掴み、ソファーに体を押さえつけた行為①。その後、取り押さえを継続したまま、任意で覚醒剤を確認するため財布の提出を求めたが、承諾しなかったため、承諾を得ないまま開き、白色結晶を確認した行為②。→① 警職法2-1に基づく職務質問に際して、同意なくホテル客室に立ち入ることは許されるか。本件では既にCOの時間を過ぎており、ホテルや警察官の声掛けにも反応しないか、異常な言動で対応していたことから、通常の宿泊客とはいえない状況になっていたことから、無銭宿泊、及び覚醒剤使用についての職務質問の効果をあげるには居室に立入り、直接対面して会話することが必要な状況であり、居室に立入り、ドアに足を差し入れることについては必要かつ相当な行為であるといえる。次に、殴りかかってきた者に対してとっさに右腕を掴み、ソファーに押し倒した行為については、有形力の行使の程度こそ強いが、突然の暴行を契機とするもので、緊急性があり、職務質問を継続するには必要かつ相当であるといえるから、適法である。→②原則として、職務質問に付随する所持品検査は任意で行われる必要があり、同意が求められる。一方で、捜査に至らない、強制にわたらない限り、承諾がなくても検査の必要性、緊急性、及び保護される公共の利益→犯罪の重大性、危険性に対して、被侵害利益との権衡のもと、具体的状況の下で相当と認められる限度で許される。本件についてみると、対象者はホテルや警察官の問いかけに対し異常な言動を返しており、覚醒剤使用の前歴を確認しているといった状況があるから、嫌疑の程度は相当に高まっていた。よって、所持品検査を行えば覚醒剤が発見される可能性は高く、持ち物を確認することの必要性は高い。また、覚醒剤は処分が容易であるから、今確認しなければ散逸する危険性が高いため、緊急性も高い。対して、被侵害利益は財布を確認されるに過ぎないことから、その程度は軽いものである。よって、総合的に考えて、本件所持品検査(行為②)は適法である。

→この判例(最決H15/05/26)の亜種を作るとすれば、ドアに鍵がかかっていたならより立入りを丁寧に論じる必要があるが、結論は適法であと思われる。また、無抵抗、反抗的言動程度の被告人に対して2人かかりで押さえつけたりしていれば、緊急性がかなり減り、相当性も減るので単体では違法となる可能性は高い。少なくとも継続しているなら違法(本件ですら許容限度を超えているが、暴れそうだったので「令状主義潜脱の目的はない」、と違法とも適法とも言わないギリギリの判断となっている)

2.       承諾なき所持品検査

(論証)

警職法2-1で明文規定がないところ、口頭における職務質問に付随して、その効果を挙げるために任意で行われる限り、許されると解すべきである。原則として、職務質問に付随する所持品検査は任意で行われる必要があり、同意が求められる。一方で、捜査に至らない、強制にわたらない限り、承諾がなくても検査の必要性、緊急性、及び保護される公共の利益→犯罪の重大性、危険性に対して、被侵害利益との権衡のもと、具体的状況の下で相当と認められる限度で許される。

<鍵をこじ開けたパターン>

法益侵害の程度が大きいため、これを違法として、一方で既に緊急逮捕の要件が整っており、続けて逮捕が行われているから逮捕の現場における捜査として同一視しうるので適法、という書き方が米子強盗(アタッシェケース破壊事件)との関係で適切と思われる。


3.       一斉検問

警「察」法2条1項の交通の取締として適法とする。所掌事務の範囲で行っているよ、という程度の根拠。

4.       強制の処分(197-1但)

個人の意思を制圧し、身体住居財産等重要な権利利益に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別な根拠規定がなければ許容することが相当でないもの。

・宅配業者が輸送中の荷物に対するX線検査→プライバシーを大きく侵害するもので、検証としての性質を有するものであるから強制処分

5.       GPSロガー(被疑者に対して)

GPS捜査は、公道上のみならずどこにいてもその行動を逐一把握することを可能とし、個人の行動を網羅的、継続的に把握するものであるから、個人のプライバシーを著しく侵害するものである。憲法35条は住居……について侵入を受けることのない権利を保障しているところ、個人のプライバシー領域を含む行動全てを把握することは憲法の保障する重要な権利利益を侵害するもので、個人の意思としても、少なくとも知っていれば喜んで提供するとは考えられない内容であるから、黙示に制圧されていたといえる。よって、強制処分にあたる。

6.       任意捜査の限界

強制処分にあたらない場合であり、任意捜査であるといっても、無限定に許容されるものではなく、捜査の必要性、緊急性から具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容される(比例原則。必ず強制処分にあたらないか検討後使用し、比例原則を出す以上絶対に任意処分なんですよね(進次郎))

考慮要素は有形力の行使の程度、権利法益の種類、侵害程度、被疑事実の重大性、嫌疑の程度、から導かれる捜査の必要性、緊急性。最後は総合考慮。

7.       承諾を得た強制捜査

承諾を得れば、無令状で「強制処分」に該当する行為を行ってよいか?という問題。法益をあえて、理解した上で権利放棄したといえる場合ならば、特に許される。但し、放棄できない権利利益もあり、家宅捜索の承諾、女子身体検査の同意は通常承諾がありえないから無効らしい(アガルート)。

8.       実質的逮捕

警察による適法な任意同行後、取調べが開始されて数回の休憩を挟みながら断続的に取調べは継続し、午前8時ごろから翌午前0時過ぎまで常に監視されつつ行われた。その際、食事や用便の際も常に監視が継続していたものである。この事案について、富山地決S54/07/26は勾留請求時の審査で逮捕手続きに重大な違法があるとして請求を棄却した。

任意捜査として、任意同行を求めてそれに応じた被疑者を一定時間拘束すること自体は任意捜査として適法に行われる(197-1本/198-1)。一方で、任意捜査として本人が表面上同意して行われていたとしても、任意捜査として行われる限界を超え、実体が法令、具体的には逮捕令状の発付を受けなければ許されない強制処分たる実質的逮捕として違法となる場合がある。(その後の勾留を先行逮捕重大違法で却下するかは裁判所によってわかれており、本決定以外では多くが軽微な違法としている)

任意同行後の拘束について、①同行を求めた時間、場所、②同行の方法、態様、③同行の必要性、④被疑者の属性、⑤被疑者の対応、⑥捜査官の意図、⑦逮捕状準備の有無、そして特に⑧同行後の取調べ時間・場所・方法から総合的に判断して、逮捕と同視すべき制約が加えられているか検討する。

……

この先、判例が認めている議論として実質的逮捕ではないが、任意捜査として許される限界を超えた、「事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容」されるか否かというものがある(いわゆる高輪グリーンマンション事件)。また、午後11時過ぎから夜を徹して翌日午前9時に自供し、その後食事休憩等取りながらも22時間にわたって断続的に取調べが行われた(いわゆる平塚ウエイトレス殺人事件)場面でも、同様に任意捜査として許されるかの判断を行っている。

特に平塚ウエイトレス殺人事件では富山地決の事件と時間や取調べ態様は大きく異ならないようにもみえるため、その区別が問題となるが、平塚は被疑者があえて積極的に聴取を受け真相を解明することを望んだこと、参考人としての聴取の中で供述が変遷し、ついには疑いを生じ被疑者となり、その自白内容についてもなお整合性がとれず疑いが生じたため、長時間に及んでしまったことから、捜査官としては令状主義の潜脱を意図したものではなかったこと等を理由として任意捜査の限界の中で適法とした。この判断基準は上記「実質的逮捕」の基準とどう異なるのか不明であるが、仮に同じような議論になってしまうとしても「区別して書く」ことが答案戦略上は求められる。

9.       おとり捜査

いわゆるおとり捜査やコントロールド・デリバリーの適法性。任意捜査の適法性の枠組み(比例原則、197-1)で考えるのが判例。公益+必要性vs被侵害利益+強度+犯罪が(ほっといても)行われる程度

結果として違法なおとり捜査とした場合証拠排除にとどまるのか、控訴棄却、免訴までいくのかは争い。

10.    逮捕の理由と必要性

逮捕は199-1、現行犯の場合憲33/刑訴212/213、緊急逮捕の場合210で規律される強制処分である。

要件は①逮捕の理由(199-1本、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由)、②逮捕の必要性(199-2但、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは却下されることの帰結)であり、②は犯罪の軽重、逃亡のおそれを具体的事実から判断する。

ついでに確認しておくと、警察による逮捕の場合203-1から48時間以内に検察官送致し、検察官が受け取ってから205-1から24時間以内に勾留に移らなければならない。その合計は205-2から72時間。対して、検察官が逮捕した場合は勾留請求まで48時間(204-1)に短縮されることに注意する。

10-a. 現行犯逮捕

現行犯逮捕は、犯人であることが明白であって、誤認逮捕のおそれが低く、かつ即時に犯人の確保、制圧の必要性が高いことから令状主義の例外として許される。よって、要件は①逮捕の必要性があり、②犯罪の現行性あるいは時間的接着性があること、③場所的接着性など、犯罪が行われたことと犯人性が「逮捕者自身にとって」明白であることが要件となる。

11. 勾留の要件、逮捕前置主義

勾留の要件は①勾留の理由、②勾留の必要性、③逮捕前置、④勾留質問である。

①勾留の理由は逮捕の理由における嫌疑より高度のものが要求される。また、207-x-1~3のいずれか(住所不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ)に該当することが必須である。

②勾留の必要性は起訴可能性、捜査の進展、被疑者の年齢や身体の状況から判断する。

12.    事件単位の原則

A罪で逮捕した被疑者を、後に発覚したB罪で勾留できるか。原則として事件単位で行われるべきであり、それは逮捕前置主義の意思の貫徹から導かれる。なお、被疑事実の同一性がある場合は実質的に連続した取調べが想定されるから、許される。

13.    勾留請求の別事件付加

A罪で逮捕して、A罪+B罪で勾留することは許されるか。事件単位の原則との関係で問題となる。あくまでA罪の逮捕が先行しており、A罪単体での勾留が可能なことを前提とし、A罪での勾留にB罪という理由も付記してあわせて取調べを行うことは、被疑者の拘束時間という点で有利であるから、許される。ただし、これはA罪の逮捕が先行しており、A罪での勾留が適法であるからこそ認められるものであるから、A罪での勾留に理由・必要性がなくなった時点で、B罪における勾留に理由があっても釈放されなければならない。

14.    違法逮捕から続く勾留請求

逮捕について準抗告を認めていない(429-1-2反対)ことから、勾留請求時点で逮捕の違法についても判断することを法は予定しているといえ、原則として却下すべきである。しかし、その違法が軽微な場合には形式的に違法な逮捕が先行していたとしても、勾留以下の手続きは進めることが許される。特に勾留請求を却下すべきとしている(207-5但、206-2)身柄拘束時間制限の超過と同視すべき程度の違法があれば、却下される。

15.    一罪一逮捕一勾留の原則

この場合の一罪は「実体法上一罪」を指す。なお、実体法上一罪であっても、逮捕勾留中に新たに発生した事案である場合や、新たに発覚した場合については改めてその件による逮捕、勾留が許される。これは、捜査機関が極力同時に処理することで被疑者の負担を軽減させることを目的とするところ、同時に処理することが不可能であった場合にまで要求することはできないことによる。

16.    再逮捕・再勾留禁止の例外

199-3、規142-1-8は再逮捕を前提とした規定であるから、法は当然に再逮捕があることを予定している。また、再逮捕が想定されている以上、再勾留の規定はないが、逮捕前置主義の観点から再逮捕のみ認められることは理論上あり得ない。

再逮捕が許されるのは、適法な逮捕勾留が先行する場合、新たな証拠や罪証隠滅のおそれが発生した場合など、再捜査、身柄拘束が必要となり、被疑者の利益と比較しても重大な事情があり、逮捕勾留の不当な蒸し返しと言えないものである。また、違法な先行逮捕勾留がある場合は、より厳格に判断し、例外的に認めるべきである。

17.    別件勾留後の本件逮捕


18.    余罪取調べ

19.    捜索差押え場所の特定性

20.    捜索差押え対象物の特定性

21.    捜索差押え執行中に届いた物

22.    令状提示のタイミング

23.    222-1/111「必要な処分」

24.    包括的差押え

25.    捜索差押えに付随する写真撮影

26.    身体に対する場所令状による捜索

27.    逮捕に伴う無令状捜索差押え

28.    強制採尿・採血・伴う移動

29.    嚥下物差押え

30.    写真撮影・ビデオ撮影

31.    接見指定(39-3捜査のため必要があるとき)

32.    一部起訴

33.    訴因の特定

34.    共謀の特定の程度

35.    訴因変更の可否

36.    訴因変更の要否

37.    縮小認定の可否

38.    悪性格の立証

39.    伝聞非伝聞の区別

40.    伝聞例外

41.    精神状態の供述

42.    321-1-2前の列挙事由の性格

43.    321-1-2前と特信情況

44.    321-1-2後と特信情況

45.    実況見分調書(証拠法)

46.    再現写真の指示説明部分

47.    再伝聞

48.    自白法則

49.    違法収集証拠排除法則

50.    違法性の承継(証拠法)

51.    私人収集の違法収集証拠

52.    択一的認定

53.    一事不再理

共犯周りの整理

共犯周りを整理します。理論対立も多いところですが、原則判例通説を採用しており、重要な反対説には言及すべきと考える場合のみ触れます。なお、予備校答案等と真っ向から反対する説を採用している場合もありますが、答案内で筋が通らない書き方(極端な話設問1で結果反価値に立ち、設問2で行為反価値に立つ、など)は出題趣旨等でも批判されるところなので、特に関連して出題されるような分野は齟齬がないような説を選択しています。


(短答知識)共犯の種類

共犯にはもともと複数の者が関与することを構成要件上予定している必要的共犯と、それ以外の単独犯で可能な犯罪を複数で共同して行うことで成立する任意的共犯がある。また、必要的共犯は1つの対象、目標に複数で挑む形の集合犯(多衆犯、集団犯)(e.g. 内乱罪)、1対1か1対多が想定されている対向犯(e.g. 重婚罪、賄賂供与罪ー賄賂収受罪)があり、任意的共犯は共同正犯、教唆犯、幇助犯の3種類となる。

・対向犯の教唆犯

対抗犯の場合、相手方はその対応する罪(同罪含)で処罰されることが立法の時点で予定されているのであるから、例えば贈賄者を収賄者の共犯(任意的共犯)として処罰することは許されない。もっとも、対抗犯の一方のみを処罰する規定しかなく、もう一方に罪が無いタイプ、例えばわいせつ物頒布罪に対して「わいせつ物を要求した者」に同罪の教唆犯が成立しないか、問題となる。この点、わいせつ物頒布罪の立法時点で頒布者に対して受領者がいることは当然分かっていたにもかかわらず、あえて受領者を罰する立法をしていないことから、立法者の意思として原則的に不可罰とすべきである。もっとも、受領者が執拗に迫ったり、特に積極的な働きかけをして実行行為者に罪を犯させた場合は、別個に検討する余地がある。このような場合、実行行為者には頒布の意図はなく、所持しているのみであったのに、受領者が強く迫ったことによって、「存在しなかった犯意を生じ」、ついに行為に及んだものであるから、通常のわいせつ物頒布に対する受領者とは異なり、あえて教唆犯として成立させることが適当である。

・同時犯

複数の者が、共謀「なくして」、同一の機会に、同一の客体に対して、同種の犯罪を実行するもの。すなわち、共謀のない(実行)共同正犯的なものである。

・同時犯の特殊ケース:同時傷害の特例(207)

これは、単に同じ機会に実行したに過ぎず、共同正犯の要件たる共謀にかけるから、一部実行全部責任の原則が働かず、個別の実行行為と因果関係のある結果にのみ責任を負う。しかし、傷害罪については行為者間の意思連絡、結果との因果関係の立証が困難な場合が多いため、立証責任の転換として、共謀がない場合でも「共犯の例による」旨規定し、意思連絡について擬制するものである。

この趣旨から同時傷害の特例は、①2人以上の者が同一人に対し②共謀なく③それぞれの暴行のいずれによって傷害結果が生じたか不明な場合に適用される。なお、本条は傷害罪、その結果的加重犯たる傷害致死罪に拡張される(判例)が、強盗致死傷、強姦致死傷等の傷害がくっつく犯罪には拡張しない(判例)。危険運転致死傷罪の論点は法改正でどうなったか分からないが、特に変わってないんじゃないでしょうか(厳罰化されたのが改正の主体なので)。

・教唆犯と幇助犯の錯誤

既に犯意を生じていることを知らずに教唆するつもりで唆したところ、既に犯意を生じていたのを強めたにすぎない(→幇助)場合、より軽い罪である幇助で処罰する。


・間接正犯(×共犯)

まず、間接正犯は共同正犯ではないし、教唆や幇助犯ではない。あくまで間接正犯者が「正犯」であり、(いわゆる実行犯という意味での)実行行為者は単なる道具に過ぎず、無罪である。(簡単な例では毒入りと知らせずに看護師に注射器を渡し、看護師はそのまま気付かずに注射しもってVが死亡した場合の、毒を入れた人物が間接正犯)

・間接正犯、錯誤

被利用者は完全な道具であり、原則として「犯罪を実行している」ことを知っていてはならない。先程の例で看護師が途中で気付いたとして、あえて看護師がそのまま(未必にせよ)殺害の故意をもって注射したとする。この場合、毒を入れた人物は間接正犯だと思っているが、現実には教唆となっている。よって、(おそらく一種の錯誤として)軽い限度の教唆犯を成立させる。(実行の着手を利用者の行為開始とする説に立つと、実行の着手時点では被利用者は知情でないので、間接正犯とする結論もあり得るが、遡って錯誤が生じた場合と同様に考えることで回避する。そうでないと、おとり捜査、コントロールド・デリバリーで厄介な問題を生じる)

・間接正犯、責任なしの実行行為者

犯罪を実行していることを知っていても、なお間接正犯の成立を検討する場合がある。1つは、極度の支配を受けており、実行する以外に手段がないようなときである。これは、反対動機形成の機会が存在しないから、違法性に欠けるとして、間接正犯となる。例としては、逆らったら確実に殺されるような状況で、目の前で第三者を射殺するよう求められた、というような場合である。

もう1つに、意思能力を欠く子供(など)を利用する場合がある。これは、「原則として」実行行為者が「何をやっているか分からない」中、実行しているため、反対動機形成の機会がないから道具性を肯定し、間接正犯となる。但し、これは「善悪の判断ができない」場合にのみ成立するものであって、「刑事無責任」の年齢とは異なってよく、判例ではおおむね14歳を境目としてそれ以上を道具とした場合、「悪いことをしている」ことは理解できるはずであるとし、指示者を教唆犯とする。

・間接正犯、その他のパターン

a. 実行行為者が身分上正当業務行為として行いうることを利用して、正犯者では適法に行い得ない行為を実行させる場合、間接正犯となる(堕胎罪など限定的な場合)

b. 非身分者が身分者を利用して身分犯の間接正犯となるか。→原則としてならない。但し、この論点は虚偽公文書作成罪については判例があるが(非公務員が公務員を利用して虚偽の公文書を作出させた場合、共同正犯とならず、作成権限者でない公務員が権限ある公務員を利用して同様の行為を行った場合、間接正犯とした)、それ以外は寡聞にして知らない。常習賭博者を道具として賭博するとかいうカイジみたいな世界なら問題になったかもしれない。


・共謀共同正犯

判例で明確に認める方向にあるから、今更否定する論述は望ましくない。

①共同実行の意思 ②正犯意思 ③共謀 ④基づく実行

①共同実行の意思 : 2人以上の者が共同してある特定の犯罪を行おうとする意思。犯罪の細部まで認識していることは必要ない。

②正犯意思 : 自己の犯罪として関与したか否か。共犯者のため、と思っていることだけで直ちに否定されるものではない。地位、身分から主体的に犯罪を実行している場合、犯罪の結果としての分け前をもらう約束などで認定する。

③共謀 : 暗黙でもよく、順次共謀でもよく、現場共謀でもよい。なお、共謀の射程の問題として、暴走した共犯者が共謀の範囲外の行為を行ったとき、共犯の範囲から外れることがあり得る。例えば、ゴットン師事例(当ブログでも紹介済み)などが類似の議論である。一方で、共謀の範囲からは一見外れていても、拡大にいたる経緯や予測可能性からして、先程の「詳細に認識している必要はない」というところからも、予定外のことすべてが範囲外というわけでもない。現場ではこの悩みを示しつつどちらかに転ばせれば良い。

もちろん、結果的加重犯については悩むまでもなく責任を負う。

④基づく実行 : 実行して下さい。

・片面的共同正犯

甲は乙と共同で犯罪を実行する予定で参加したが、乙との共謀はないし、乙は参加自体知らなかった(現場共謀もない)場合。共謀がないので共謀共同正犯ではない。

・承継的共同正犯

先行者の行為中、先行者の行為を知りつつ後行者が参加してきた。後行者の責任範囲はどこまでか、という問題。これは犯罪によって結論が異なる。なお、全く認めない説もあるが昭和末期から判例は認めているので(ry。

a. 後行者参加後の暴行が、先行する暴行による傷害を相当程度重篤化させた場合。先行者の暴行による傷害結果について承継的共同正犯を成立「させなかった」

b. (a判決の補足意見)強盗、恐喝、詐欺等では先行者の行為の効果を利用することで犯罪を成立させる場合があり、その場合においては承継的共同正犯が成立する余地があるとした。

b1. 単純一罪の場合、先行者の行為時点では全く犯罪が完成しておらず、後行者の参加後に継続して働きかけが行われ、結果犯罪が既遂となる場合が想定されるので、概ね承継的共同正犯が成立する。

b2. 強盗罪のような結合犯の場合、先行者が暴行、脅迫中に後行者が到着、反抗抑圧状態を利用して財物奪取を共同するようなものが考えられるが、これを認めた地裁判例(東京地判H07/10/09/判時1598-155)がある。これを認める場合には、後行者が積極的に利用したから認めるんだと強くアピールすることが重要となる。

b3. 先行者の行為だけで結果が生じたことが明らかな場合に、後行者の責任が問題となる。例えば、強盗致傷の先行者がおり、既に致傷結果は生じている。そこに来た後行者は反抗抑圧状態を利用して財物奪取を行った。このとき、成立するのは先行者に「強盗致傷」、後行者に「強盗」である。対して、先行者が致傷していて、後行者が参加後更に暴行を加え、そのどちらの暴行によって死亡したか分からない傷害致死の場合、傷害致死の承継的共同正犯を肯定した(名古屋高判S47/07/27/刑月4-7-1284)。

他には、暴行の結果的加重犯として行われる傷害罪について、先行者の暴行で傷害結果が生じており、後行者参加後の暴行は軽く傷害の結果は生じ得なかったという場合には承継的共同正犯を否定した事例、理論、量刑上の問題にすぎないが(罪名は変わらないが)先行する暴行で傷害結果が生じており、後行者参加後にも傷害の可能性がある暴行があった場合、先行者による傷害として分離できるものは因果関係がないので、後行者との承継的共同正犯の範囲外とするものがある。なお、ここで軽重を知ることができないときは207同時傷害特例があるので、結局多くの場合罪名は問題とならない。


・過失犯の共同正犯

指揮関係や同僚関係にあって共同の注意義務を負っている場合に想定されるが、これを共同正犯と真っ向から認める判例があるといえるかは微妙である。ともあれ、この場合はどちらにも注意義務、結果回避義務を肯定できるはずであるから、同一の物に対する注意義務を怠ったというだけなので過失の共同正犯を認めなくても認めても致命的な違いは出ないと思う。


・共同正犯の防衛

侵害者それぞれについて要件を満たすか検討する必要がある。甲の侵害が急迫していても、乙の侵害は急迫していない可能性はある。

2022年4月18日月曜日

会社法論述まとめ(簡易版・独立記事にするほどでもない子たち)【随時更新】

 ・譲渡制限株式を承認なく譲渡した場合:最判48/06/15

非公開会社における株式の譲渡制限の目的は「閉鎖的な会社である非公開会社にとって、会社にとって好ましくない者が株主となることを避ける」というものである。一方で、株式は財産的価値としても把握され、(暇なら書く→かつ会137条1項、138条第2号は譲受人から会社に対して承認請求をするという設計になっている以上)当事者間では譲渡を有効とし、会社との関係で無効とする相対的無効説に立つべきである。

このことから、会社は譲受人を株主として扱えば足りる。


・自己株式取得の財源規制

自己株式の有償取得は、実質的に株主に対する払戻しとなるため、分配可能額(

461-2)を超えてはならないという財源規制がある(461-1-1~7/166-1但/170-5)。

→違反した場合

・財産的な話

会社財産の確保、及び財源規制という法令に違反することから、830-2の対象ともなっており、無効である。また、譲渡人は会社に対して不当利得返還義務(民703/704)を負う。

なお、無効の効果として会社は譲渡人に株式を返還する義務を負うが、既に処分してしまっている場合など、返還不能な場合は時価相当額を返還することになり、逆に会社にとって不利益となる可能性もある。よって、この場合の不当利得の「利得」を売却代金と考え、仮に高騰した場合でも値上がり分を返還する必要はないとすることで、会社の不利益を回避する。また、譲渡人が持つ会社に対する返還請求権との同時履行(民533類)の主張が考えられるが、これについては同時履行の抗弁権を排除する特別規定であるとする。

・責任的な話


・仮想払込\預合

帳簿上、払込取扱銀行が発起人に金銭を貸付け、設立中の会社の預金とするものの、弁済完了までその預金を引き出さないことを約するもの。現実に会社財産が増加するのではなく、会社債権者や他の引受人の保護の観点から、この払込は無効である(通説)。

965で刑事罰が課されており、条文番号的にはとっ離れているので注意。

・仮想払込\見せ金

第三者が発起人に金銭を貸付け、株式の払込みに充て、成立後に発起人が会社から貸付けを受け、第三者に弁済するもの。こちらは明文で否定されておらず、効力が問題となる。実質的に考えると、仮想払込というものは会社設立にあたって資本金とすべく払い込まれた金銭の実体が無く、会社債権者や他の引受人の保護に欠けるため、問題となるのであったから、会社財産の基礎を危うくさせるようなもののみ特に無効とし、それ以外は有効とするのが理にかなっている。

よって、会社成立後、借入金を返済するまでの期間の長短、払戻金が会社資金として運用された事実の有無、借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等を基礎として、総合的に判断すべきである。

・仮想払込の責任関係

見せ金をした発起人・引受人→仮想した金額を会社に支払う義務52の2-1(発起人)、102の2-1/102-3(引受人)、任務懈怠責任53(発起人)

関与発起人→仮想払込み者と同じ(無過失面積52の2-2/103-2)

金銭取得の取締役の責任→任務懈怠責任423/429+推定423-3-1


・設立中の会社

設立登記によって成立する(49)以上、設立登記前は権利義務の主体となり得ないのではないか。この点、現実的には設立登記以前に社団を形成したり、法人格を取得したり、事務所予定地の賃貸借等設立に必要な行為をしたりといった行為の主体となることが求められる。よって、成立後の会社に帰属させるべくしてこれらの行為の主体として、成立後の会社と実質的に同一な「設立中の会社」という概念を導入する必要がある。

~設立中の会社は上記の目的を達すべく特に認めるものであるから、その発起人の権限にも自ずから限界が存在する。

①会社の形成・設立それ自体を目的とする、定款作成や創立総会の招集→当然認められる

②会社の設立にとって法律上、経済上必要な、事務所の賃借や事務員の雇用→定款で認められた設立費用の範囲内で認められる。設立費用の範囲外についてまで認めると、設立中の会社が一旦建て替えた上で発起人に求償する必要に迫られる。また、一切認めないとすると逆に発起人が全額立て替えて会社成立後に求償することとなる。もっとも、現実的な要請として設立にかかる一定の支払いが生じることは当然であるから、設立費用を観念し、その範囲では発起人に利用権限を与えるべきである。(→設立費用を超えてしまった場合、どの支払いが「認められない」支払いであるか問題となるが、この点時系列的に超えた時点は判明するはずであるから、それによって判断すれば足りる。(相手方の予測可能性は害していると思われるが、突っ込むと泥沼なので書かない。)

~財産引受け、設立後の広告の契約、商品の契約等

28-x-2によって定款にない財産引受けは無効となる。よって、設立中の会社が第三者と契約したが、定款の範囲外であった場合は無効となり、発起人に無権代理類推(民117類)を追求する(理論上はね)。

なお、財産引受け以外については財産引受けの規定を類推適用する説と、無関係にとにかく無効であるとする説があるが、正直どっちでもいい。とにかく定款にない財産引受け、設立に必要ではない行為がなされた場合は書いとけばいい。



2022年4月16日土曜日

違法/不公正な募集株式の発行がなされた場合の対策

違法、あるいは不公正な募集株式の発行がなされた場合の答案。

まず、取りうる手段は

○ 差止め請求権(会社210)

○新株発行無効の訴え(会社828-1-2)

○新株発行不存在確認の訴え(会社829-x-1)

 ○引受人に対する差額請求(会社212-1-1←847)

○取締役に対する責任追及(会社423←847)


☆差止め請求権

~1号: 法令定款違反

→第三者割当増資における有利発行に際して株主総会特別決議(201-1/199-2)を欠く場合

→いわゆる有利発行(199-3)。ここでの「特に有利な金額」とは、公正な発行価額よりも特に低い金額をいうところ、上場し市場価値のある株式の場合、新株の公正な発行価額は、旧株主の利益を保護するため、市場価格と等しくあるべきであるが、一方で資本調達の目的を遂げるため、時価より安い価格での発行の要請がある。よって、公正な発行価額は(判例:発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情)を総合して判断する。

その一つの判断基準として、法令ではないが、広く一般に受け入れられているルールとして日本証券業協会の自主ルールが存在し、それによると増資にかかる取締役会決議の直前日の価格の9割以上の価格、あるいは決議の日から6ヶ月以内の適当な期間を遡った平均価額の9割とする、というものがある。絶対的な基準や、当然の基準として用いてはならないが、判断基準を書いた後に「旧株主と会社の資本調達の実現との調和の観点から、一応の合理性がある基準である」として触れて判断の一助とすると良いと思う。

なお、非上場会社については「新株発行当時、客観的資料に基づく一応合理的な算出方法(DCFでも、配当還元でも何でも)を用いて判断していればよく、裁判所が別の方法で算出して判断することは取締役の予測可能性を害するため、相当でない」

→有利発行かつ株主総会特別決議なし(実質なしになる、引受人参加や虚偽説明199-3、そもそも不開催)の場合、引受人は公正な発行価額との差額を支払う義務を負う(212-1-1←847)

→会社には現実の資金が払い込まれるものの、差額を損害と認定して取締役も423(また、株代訴847)による損害賠償責任を負う(大阪高判平成11年6月17日判時1717号144頁、東京地判平成12年7月27日判タ1056号246頁)。間接損害と捉えて429や709の追求可能性もあるところだが、東京高判平成17年1月18日は不可能と断じている。理由は(*1)

~2号: 不公正発行 

目的が不公正である場合。一方で、新株発行の目的が資金調達のみではないことは多く、それ以外の目的があることで直ちに不公正とはいえないものの、会社経営者が新株発行を奇貨として株主構成を自己に有利に操作することも許されないことから、「主要目的ルール」が存在する。

主要目的ルール:

①会社の支配権争いが現に生じている場合に、

②会社の現経営陣が自己の地位を保全することを主要な目的として、

③特定の株主の持株比率を低下させるためになされる募集株式の発行を不公正な発行である

→判例:東京高決平成16年8月4日(ベルシステム24)

本件事業計画のために本件新株発行による資金調達の必要性があり、本件事業計画にも合理性が認められる本件においては、仮に、本件新株発行に際し相手方代表者をはじめとする相手方の現経営陣の一部において、抗告人の持株比率を低下させて、もって自らの支配権を維持する意図を有していたとしても、また、前記イ記載の各事実を考慮しても、支配権の維持が本件新株発行の唯一の動機であったとは認め難い上、その意図するところが会社の発展や業績の向上という正当な意図に優越するものであったとまでも認めることは難しく、結局、本件新株発行が商法280条ノ10所定の「著シク不公正ナル方法」による株式発行に当たるものということはできない

地裁決定:東京地決平成20年6月23日金判1296号10頁(クオンツ)

他にこれを合理化できる特段の事情がない限り、本件新株発行は、既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであると推認できるというべきである。…債務者において資金調達の一般的な必要性があったことは否定できないものの、これを合理化できる特段の事情の存在までは認められず、本件新株発行は、既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであると認めるのが相当

公募増資の場合: 平成29年7月19日東京高決

①公募増資は新株の割当先を引受証券会社により決定するから、取締役の意思とは無関係に決まる上、割当先は取締役の意思に従って議決権を行使する保証がないこと

②当然、取締役の意思に反対する株主や第三者も応募することができ、割当を受ける可能性があること

③割当後に市場に流通し、取締役の意思に反する株主が取得する可能性もあること

から、第三者割当増資の場合に比して、取締役に反対する株主らの支配権を減弱させる確実性が弱い。


☆新株発行無効の訴え(会社828-1-2)

まず、出訴期限に注意する。法律関係の早期安定の確保から、効力発生より6ヶ月(非公開:1年)となっている。また、839から将来効、838対世効(→類似必要的共同訴訟)となる。

なお、差止め請求権との関係について、二者は請求の基礎に同一性があるため、差止請求訴訟後、仮処分命令に違反してなされた新株発行について無効の訴えに切り替えた場合、出訴期限を徒過していても、差止請求の時点で訴えを提起したものとみなすことができる。(名古屋地判平成28年9月30日判時2329号77頁)

次に、法は無効原因を特定していないところ、無効原因は判例によって形成されてきたが、取引安全の観点から、制限的に解する必要がある。

以下、列挙。

>無効<

授権枠超過

株主に対する202-4の通知を欠く

非公開会社において株総特別決議を欠く新株発行(非公開会社については、その性質上、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視し、その意思に反する株式の発行は株式発行無効の訴えにより救済するというのが会社法の趣旨と解される)

差止仮処分命令に違反した

公開会社において201-3/-4、募集事項の通知公告を欠く

>有効<

取締役会決議を欠く

公開会社において株主総会特別決議を欠く有利発行

不公正発行


☆新株発行不存在確認の訴え(会社829-x-1)

出訴期限なし(期限のある新株発行無効と異なり、不存在を前提とした訴訟を起こすことが可能である以上、出訴期限の制限には実質的に意味がない。新株発行無効は前述の通り取引安全の観点から期限がある)。遡求効(839/834-x-13)

~新株発行無効は「新株発行されたが、瑕疵がある」場合。新株発行不存在は「新株発行の外観があるが、実体が存在しない」場合である。当然後者の方が圧倒的に重大な問題を抱えている。具体的には、不存在は ・新株発行手続が全くされない中、登記のみなされた場合 ・代表権のない者が株券を独断で発行した場合 などの特別な場合に限られる。


*1

〔1〕会社が損害を回復すれば株主の損害も回復するという関係にあること、〔2〕仮に株主代表訴訟のほかに個々の株主に対する直接の損害賠償請求ができるとすると、取締役は、会社及び株主に対し、二重の責任を負うことになりかねず、これを避けるため、取締役が株主に対し直接その損害を賠償することにより会社に対する責任が免責されるとすると、取締役が会社に対して負う法令違反等の責任を免れるためには総株主の同意を要すると定めている商法266条5項と矛盾し、資本維持の原則にも反する上、〔3〕会社債権者に劣後すべき株主が債権者に先んじて会社財産を取得する結果を招くことになるほか、〔4〕株主相互間でも不平等を生ずることになることである。」 「もっとも、株式が公開されていない閉鎖会社においては、・・・違法行為をした取締役と支配株主が同一ないし一体であるような場合には、実質上株主代表訴訟の遂行や勝訴判決の履行が困難であるなどその救済が期待できない場合も想定し得るから

2022年4月14日木曜日

役に立たなかった幇助犯(宝石商殺害事件)

甲は、乙がVから預かっていた宝石の返還を免れるためVを殺害した強盗殺人罪の幇助犯として起訴された。甲の行為は、①乙が殺害場所と予定していた場所を目張りした ②計画が変更され、乙の運転する車中で殺害する際、後ろから車で追走した ことである。

①について、実際には殺害場所とならなかったばかりか、現実には乙が甲に依頼したわけでもなく、なんなら甲が目張りをしたこと自体乙は知らなかったようである。

(こういう場合に、)幇助者(幇助犯でないという結論に至った場合、幇助者ではないが区別のためこの名称とする)の行為が、正犯者を幇助したと言い得るには、直接正犯者の役に立つことでなくとも、「精神的に力づけ、犯罪の意図を維持ないし強化することに役立った」ことで足りる。


本件では、乙は甲が殺害予定地に目張りをしたものの、計画が変更され、実際にその場所では殺害しなかった。よって、乙は甲の①行為から直接の助力を受けていない。

また、実際には利用しなかったとしても、乙が甲の①行為によって精神的に助力を受けたといえるかについて、乙は甲が目張りをしてくれていたことを一切知らず、そうであれば①行為から何かしらの精神的後押しを受けることはありえない。よって、甲①行為には乙の強盗殺人罪の幇助犯は成立しない。

<× 原審では幇助犯を肯定した。

甲の行為は乙の一連の計画に基づく被害者の生命等の侵害を現実化する危険性を高めたものと評価できるのであって、幇助犯の成立に必要な因果関係に欠けるところはない


②について、どう実際に役立ったかは不明だが、事実関係から明らかにできる範囲で取れそうなら書いていいし、不安であれば「~~という面で直接乙の犯罪成立に役立ったとみることができる。また、仮に直接犯罪の成立に役立ったといえないとしても、<精神的に役立ったことを示す(甲が追走していることを乙が知っている、何かあった際は甲が手助けしてくれるだろうという期待、などを挙げて)>

として、こちらは幇助犯を成立させればよい。















教唆犯の因果範囲(ゴツトン師事件)

甲が乙、丙に「Aに押し入って強盗するよう」教唆し、乙・丙はA方へ赴くも侵入できず断念。しかし乙は丙に「Bへ押し入って強盗して帰ろう」と勧誘し、乙・丙はB方で強盗を遂げたという事例(いわゆるゴットン師事件を簡略化したもの。この事件くらいでしか見ない「ゴットン師」なる名前だが、パチ台に「仕事」をする人たちを「仕事師」が訛って「ゴト師」というのは現在も聞く言い方なので、「強盗師」とか「仕事師」くらいの意味なんでしょうね。絵師みたいな言い方するじゃん。)。

① 故意

このとき、甲が教唆犯として負う責任はA方に対する強盗未遂についてなのか、それともB方への強盗既遂まで負うのか、というのが今回の問題である。まずはお題目として

「甲の故意範囲について、必ずしも本人が認識した範囲と現に発生した事実とが具体的に符合する必要まではなく、構成要件的に重なり合う範囲で符合することで足りることから」

あてはめ

「甲が教唆した犯罪はA方に対する強盗であり、現実に起きたものはB方に対する強盗である。これは、客体がAからBに変わっているものの、それ以外の構成要件は同一であることから、Aに対する強盗を教唆する故意で、Bに対する強盗を教唆する故意があると認めることはできる」

として、故意は客体の錯誤・法定的符合説で認定します。

② 因果関係

乙丙はA方で断念後、「犯意を継続し」という表現はされているものの、一旦完全に反抗を断念している。そして、乙が丙を改めて強く誘い、丙がそれに動かされて決意を新たにしてB方への強盗を結構したものである。

このことから、甲の教唆によってA方へ向かった乙丙が誤ってB方へ侵入したとか、A方で成功後B方へ連続して行ったとかいう場合とは異なり、一旦断念した段階で因果関係は切れ、乙の勧誘によって改めて乙丙間に共謀が成立し、甲についてはもはや関係がないものと言える。

2022年4月5日火曜日

刑法短答:メモ直前用【随時更新】

・因果関係

甲が致死量の毒薬をVに飲ませる→事情を知らない乙がV死亡前に刺殺(即死)→甲が毒を盛った行為とV死亡の間には因果関係が「断絶される」

米兵ひき逃げ事件(甲が通行人を車で跳ね上げ、同乗者乙が屋根から突き落として転落、Vは衝突か転落か、どちらが原因か不明なくも膜下出血で死亡した)では、甲の衝突とV死亡には因果関係が「ない」

甲がVの求めに応じて覚醒剤をVに注射。甲は錯乱したVを放置して帰宅したところ、Vは覚醒剤中毒で死亡した。この場合に因果関係を肯定する要件:甲帰宅前に適切な治療を受けさせていれば「救命が合理的な疑いを超える程度に確実」←具体的には「十中八九救命可能」であること

被害者逃走事例:逃走して危険な場所に飛び込んだ結果死亡した場合、その逃走の原因となった暴行、恐怖感等から逃走の方法として「著しく不自然、不相当であった」といえる場合のみ因果関係を断絶する。(cf.高速道路侵入事件:長時間、執拗な暴行を受け、被告人らに対し極度の恐怖感を抱き、必死に逃走を図る過程でとっさにその……選択をした……→因果関係肯定)

熊撃ち事件:甲はVを熊と誤認して猟銃を発射、命中させ、放置すれば死に至る重症を負わせる。その後人間だと気づき、あえてもう一発命中させ死期を早めようと考え、銃殺した。→2発目の発射行為とV死亡の間に因果関係が「ある」。なお、第一発射には第二発射を殺人罪と取る前提で、業務上過失致傷罪を成立させる。

・不作為犯

不真正不作為犯の因果関係肯定には、期待された作為をしていれば結果が発生しなかったことが「合理的疑いを超える程度に確実」であったことが必要(因果関係\覚醒剤事件)

不作為の放火罪成立には「既発の火力による焼損を認容する意思」(×既発の火力を「利用する」意思)があれば足りる(炭火引火事件)

財産犯の不真正不作為犯はありまぁす(誤振込に気づいたものの、申告せず払い戻した行為について、不作為詐欺罪が成立する)

死体遺棄罪の不真正不作為犯もありまぁす(葬祭をする責務を負うものが死体を放置して立ち去る行為)

盗品等有償譲受罪は、盗品等である「かも知れない」と思いながら買うことで未必の故意を認定する。この認定は譲受時点で判断するため、後から盗品ではないと確信しても関係ない。

・被害者の同意

被害者の承諾がない状態で、承諾があると誤認して殺害した甲には、199が成立するものの、同意殺人罪の故意しかない。この場合、抽象的事実の錯誤となり、両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い罪が成立する。両罪とも保護法益は人の生命身体である、侵害も生命に対する侵害という点で一致しているため、軽い同意殺人罪の限度で成立する。

追死の意思がないにもかかわらず、欺罔して追死すると誤信させ、Vを自殺させた場合、Vの同意は真意に沿わない重大な瑕疵があり無効であるため、同意のない殺人罪、すなわち199となる

特別公務員暴行陵虐罪の保護法益は公務の適正という国家法益であるため、被害者(というのが適切かわからないが、暴行の相手方)の承諾の有無に関わらず成立する。

・正当防衛

正当防衛に対する正当防衛は成立しない(急迫「不正」の侵害にあたらないため)

正当防衛として許される限度は、自己又は他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものである。すなわち、たまたま侵害行為の程度を反撃が超えたとしても、直ちに正当防衛を否定するものではない。

・責任能力、責任故意

心神耗弱/喪失→必要的減免(39-2)

心神喪失→精神の障害により+(事物の是非善悪を弁識する能力がない OR その弁識に従って行動する能力がない)