2022年4月14日木曜日

教唆犯の因果範囲(ゴツトン師事件)

甲が乙、丙に「Aに押し入って強盗するよう」教唆し、乙・丙はA方へ赴くも侵入できず断念。しかし乙は丙に「Bへ押し入って強盗して帰ろう」と勧誘し、乙・丙はB方で強盗を遂げたという事例(いわゆるゴットン師事件を簡略化したもの。この事件くらいでしか見ない「ゴットン師」なる名前だが、パチ台に「仕事」をする人たちを「仕事師」が訛って「ゴト師」というのは現在も聞く言い方なので、「強盗師」とか「仕事師」くらいの意味なんでしょうね。絵師みたいな言い方するじゃん。)。

① 故意

このとき、甲が教唆犯として負う責任はA方に対する強盗未遂についてなのか、それともB方への強盗既遂まで負うのか、というのが今回の問題である。まずはお題目として

「甲の故意範囲について、必ずしも本人が認識した範囲と現に発生した事実とが具体的に符合する必要まではなく、構成要件的に重なり合う範囲で符合することで足りることから」

あてはめ

「甲が教唆した犯罪はA方に対する強盗であり、現実に起きたものはB方に対する強盗である。これは、客体がAからBに変わっているものの、それ以外の構成要件は同一であることから、Aに対する強盗を教唆する故意で、Bに対する強盗を教唆する故意があると認めることはできる」

として、故意は客体の錯誤・法定的符合説で認定します。

② 因果関係

乙丙はA方で断念後、「犯意を継続し」という表現はされているものの、一旦完全に反抗を断念している。そして、乙が丙を改めて強く誘い、丙がそれに動かされて決意を新たにしてB方への強盗を結構したものである。

このことから、甲の教唆によってA方へ向かった乙丙が誤ってB方へ侵入したとか、A方で成功後B方へ連続して行ったとかいう場合とは異なり、一旦断念した段階で因果関係は切れ、乙の勧誘によって改めて乙丙間に共謀が成立し、甲についてはもはや関係がないものと言える。

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