2022年4月28日木曜日

著作権法ー侵害主体論

著作権法の論文試験において、問題となる箇所は①著作物性、②著作権者(職務著作、共同著作、権利譲渡)、③侵害主体、④侵害と救済、⑤各支分権、⑥著作者人格権、が主だったところかと思います。著作隣接権については実務上重要ではあるものの、学術的に大きな論点が転がっている分野でもないので、学部や法科大学院でもあまり深掘りはされない印象です。

今回は、侵害主体論について簡単に整理します。

著作権法の問題においてはまず①著作物性を認定、あるいは争いますが、結局ここで著作物性なし、としてしまうとそこで議論は終わってしまうので答案上(複数の対象が考えられる場合を除いて)認定しないことはメタ的に可能性が低くなります。なので、例えばブループリントから生成した建築物やそのフィギュアに著作権が及ぶか、といった特殊な場合を除き、割と簡単に認定して終わりということが多いです。ここで引っかかる場合は多くが応用美術か建築関係でしょう。

次に、②著作権者を認定します。ここは既に列挙したように、職務著作、共同著作、権利譲渡があった場合に特に問題となります。他のパターンとしては著作物性が問題となった挙げ句、著作権が更に及ぶかが問題となるブループリントのパターンなどでしょうか。いずれにせよ、重要な論点ではありますが、形式的に処理しやすい論点です。

そして③侵害主体について。これは今回の主題ですので、後述します。

④侵害と救済については、まず侵害があったことを認定します。その際に、⑤各支分権、⑥著作者人格権のどこをどう侵害したのか、ということを丁寧に論じ、②著作権者の①著作物の⑤~~権/⑥~~権を③侵害主体が④侵害したので、④こういった救済が可能という形に流します。本丸はここにあることが多いでしょうし、論点的に比重を置かない場合であっても、必然的に分量は多くなる場所です。

このように、著作権法の答案の流れの中で位置づけられる③侵害主体論は、個人的に特に重要な分野だと考えています。というのも、事案から侵害主体が簡単に特定できない場合があるからです。特に、昨今の通信技術の発展によって侵害主体が誰だかわからなくなるケースが増加しており、若手の研究者が多く、テック系の話題にも明るい(これは偏見かもわかりませんが、少なくとも師事した先生方は比較的お若い先生が多かったです)知財法分野の特性上、狙われる可能性が高いと考えられます。試験対策というメタ視点を離れたとしても、判例も積み重なってきている重要分野であることは間違いありませんので、一度整理したいと思います。


前置きが長くなりましたが、以下侵害主体論についての整理です。

一番シンプルな形は、支分権相当行為を行う者が侵害行為の主体となるものです。演奏した人、コピーした人が対象です。これで処理できない場合が問題で、①手足論、②カラオケ法理、③規範的行為主体/枢要行為論、④間接侵害の4パターンが存在します(枢要行為論は規範的行為主体ではなく物理的行為主体だという説もありますが)。

①手足論

単純な形でいえば、社長が秘書に命じて書籍をコピーさせた場合。これは、秘書が物理的に侵害を行っていますが、秘書はページを指定したわけでもなく、自分のためにコピーしたのでもなく、直接そこから利益を得たのでもありませんから、完全に社長の命令によって社長のために、「手足として」複製行為を行ったといえます。この場合、侵害主体は秘書ではなく社長であるとする、これが手足論です。

②カラオケ法理

クラブキャッツアイ事件以来(物理的な)侵害行為者を手足論で決めることが適切でない場合に適用されてきた理論です。これは、カラオケスナックのように、客が曲を指定し、歌うような場合、直接的な侵害者は当然客であるにも関わらず、全体としてその場を支配し、そこから利益を得ている管理者たるスナック側が侵害者であるとするものです。判断基準はⅠ管理・支配性、Ⅱ営業上の利益の帰属であり、店は雰囲気の醸成による集客効果で営業利益を得ていることから、特に侵害者を店側とすることが適切であると判断したことによります。

③規範的行為主体/枢要行為論

カラオケ法理に長年支配されてきた我が国の侵害主体論ですが、ロクラクⅡ事件を機に枢要行為論が勢力を増しました。

ロクラクⅡ事件の概要:テレビ放送を録画する親機と、親機を遠隔操作し、親機で録画した映像をネット経由で受信して視聴できる子機からなる製品「ロクラクⅡ」という製品があります。親機は事業者から貸与され、事業者の手元でアンテナ線に繋がれ、子機は利用者に貸与または販売され、利用者が操作する、という形で利用するものです。この機器の使用によってテレビ放送を複製したものは誰か、という問題が起きました。この点につき、全体として複製行為を見たとき、複製に必要不可欠な「枢要行為」を行っているのは誰かという観点から、複製の枢要行為は機器にアンテナ線を接続し、テレビ放送波を入力することだと認定して、事業者こそが侵害主体であるとしました。

かなり学説から批判を浴びている理論で、複製の対象やタイミングを指定するのは利用者であるから、それこそが「枢要行為」であるとするあてはめの違いで真逆の方向へ行く考えもあります。答案上はあてはめで真逆にしても大きな問題は無いと思いますので、自分が何を「枢要行為」としたのかさえきちんと書けば良いと思います。

さて、このようにして誕生した枢要行為論ですが、その後もまねきTV事件で踏襲され(ほぼ同時期のため「枢要行為」という言葉は出ていませんし、ロクラクを見て書いたかはわかりませんが)、現在も維持されていると考えられます。結局、カラオケ法理を判例が捨てて枢要行為論に完全に移行したというわけでもなく、枢要行為論はカラオケ法理の拡張であって、Ⅰ管理支配性、Ⅱ利益の帰属というカラオケ法理の判断基準に修正を加え、Ⅰ管理支配性において半分利用者側が管理していたり、まねきTVに至っては完全買い取りなので所有権が利用者にあること、そしてⅡ利益の帰属についても、サービス提供の対価は当然事業者が受領するものの、そこから雰囲気の醸成や集客といったカラオケ法理の依拠した効果は全く生まれません。そんな場合であっても、Ⅲ枢要行為を担っている者こそが侵害主体である、という基準によって、侵害主体を「著作物を楽しむ人」から引き剥がすことが可能であるとしたものであります。

ここまで述べてきた枢要行為論ですが、平成26年(まねきTV事件がH23)に自炊代行事件の判決が下ります。いわゆる電子書籍の自炊、すなわち利用者が紙の本を購入し、代行業者に渡し、業者は断裁のうえスキャンし、利用者にデータをpdf等のファイルとして戻すという行為が行われました。この行為における複製権の侵害者は誰でしょう。

枢要行為論で見てきたところによると、本を選び、買ったのが利用者、複製を実際に行い、(紙のスキャン)データを入力し、ファイルに出力したのは業者、コンテンツを楽しむのは利用者であって、自炊に必要不可欠な行為たる断裁~スキャン~書き出しを行っているのは業者であるから、侵害者は業者といえそうです。しかし、知財高裁は手足論、規範的行為主体論の存在を認めつつも、手足論レベルで事業者が侵害主体であると認めて終わります。原審では枢要行為論にもとづいて判断しているにも関わらず。

これについては「枢要行為論を捨てたか」という見方もできましょうが、どうやらそうではなく、手足論で十分、当然これは事業者が侵害主体だという判断があったからのようです。仮に枢要行為論を採用したとしても、結論に変わりはありませんから、あまり悩まず枢要行為論を取ってしまっても間違いとは言えないと思います。


④間接侵害

まず、間接侵害の条文は特許法と異なり著作権法にはありません。なので、仮に間接侵害を認める場合は112条1項「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」の解釈の中に間接侵害者を含めるという類推適用をすることになります。

これについては「ヒットワン事件」と「選撮見録事件」が判例としてあります。

まず、ヒットワン事件とは、スナック等にカラオケ機器をリースする業者に対する販売差止請求を認めたものになります(このリース業者はJASRACと契約していませんでした)。カラオケ法理から、客がその機器を使って歌った場合の侵害者はスナックになることは前述の通りで、本判決も同様の判断をしました。その上で、更に販売を差し止められるか、ということが争点となりました。

というのも、カラオケ機器のリース業者は侵害者ではありませんから、差止請求の対象となる「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」でもないことになります。この判決ではその解釈の中に「侵害を幇助するもの」であって、

〔1〕幇助者による幇助行為の内容・性質

〔2〕現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度

〔3〕幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等

を総合して判断して、侵害主体に準じる者として評価できる場合、「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に含まれるという解釈を示しました。(ここでは類推適用ではありません、解釈て含まれるという判断です)


次に、選撮見録事件です。通販番組で昼下がりになんと2台でお値段変わらず売ってそうなネーミングですね、これでよりどりみどりと読みます。こちらは類推適用で処理しました。

これはロクラク等に似た機械ですが、集合住宅に1台の親機を設置、その親機に管理組合などがアンテナ線を接続します。すると、親機は所謂全録をして、各戸に置いた子機でその番組を1週間以内好きなときに呼び出して視聴できる仕組みになっています。この機械を販売した業者に大阪民放5社が差止を求めて訴えたという事件です。TVO(TXN系列)も参加したんですね。大阪ならKBSとかSUNとかWTVあたり映りそうなもんですが、神戸市でもTVOスピルオーバーしてますし。

さて、この事件では、侵害主体につき(変形ですが)ロクラクⅡ、まねきTV事件と同じく親機管理・信号入力者である管理組合としました。これは納得ですね。その上で、利用者は入居者であり、不特定多数、ないし特定多数であるといえますから、親機は公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する(30-1-1)機器であるとして、送信可能化権を侵害するものであると認定しました(支分権でまとめますが、こうなると私的使用での正当化が不可となります)。

本題の間接侵害論について、当該機器の販売によってほぼ必然的に送信可能化権の侵害は発生することが明らかであり(正常に稼働すれば当然に侵害する)、販売を差し止めることは販売事業者への差止請求を認めるだけなので簡単な一方、利用者や侵害者をすべて特定し差止請求をすることは現実的でない上に、業者は当該機器の販売を差止められるのに対してテレビ番組の全録が導入された団地全てで開始されることによる被侵害利益の比較衡量によって、業者は112-1を類推適用して「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者(=ここでは管理組合)」と同視できるとして、差止請求を認めました。


結局、この2つの事件は類推適用なのか、それとも「含まれる」とするのかに違いはあれど、ほぼ同様の考えで著作権侵害を必然的に起こす機器の販売を差し止めさせたものになります。実質的な理由としては選撮見録事件にあらわれた「元を叩くのは楽、購入者を叩くのはダルい」ということにあり、その正当化としてこの長々とした理屈が生まれたのだと思います。

ともあれ、差止請求の場合に限って間接侵害類似の考え方が出現するといえましょう。


その他の重要判例として2ch事件など取り上げたいと思いますので、また追記します。

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