2022年4月16日土曜日

違法/不公正な募集株式の発行がなされた場合の対策

違法、あるいは不公正な募集株式の発行がなされた場合の答案。

まず、取りうる手段は

○ 差止め請求権(会社210)

○新株発行無効の訴え(会社828-1-2)

○新株発行不存在確認の訴え(会社829-x-1)

 ○引受人に対する差額請求(会社212-1-1←847)

○取締役に対する責任追及(会社423←847)


☆差止め請求権

~1号: 法令定款違反

→第三者割当増資における有利発行に際して株主総会特別決議(201-1/199-2)を欠く場合

→いわゆる有利発行(199-3)。ここでの「特に有利な金額」とは、公正な発行価額よりも特に低い金額をいうところ、上場し市場価値のある株式の場合、新株の公正な発行価額は、旧株主の利益を保護するため、市場価格と等しくあるべきであるが、一方で資本調達の目的を遂げるため、時価より安い価格での発行の要請がある。よって、公正な発行価額は(判例:発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情)を総合して判断する。

その一つの判断基準として、法令ではないが、広く一般に受け入れられているルールとして日本証券業協会の自主ルールが存在し、それによると増資にかかる取締役会決議の直前日の価格の9割以上の価格、あるいは決議の日から6ヶ月以内の適当な期間を遡った平均価額の9割とする、というものがある。絶対的な基準や、当然の基準として用いてはならないが、判断基準を書いた後に「旧株主と会社の資本調達の実現との調和の観点から、一応の合理性がある基準である」として触れて判断の一助とすると良いと思う。

なお、非上場会社については「新株発行当時、客観的資料に基づく一応合理的な算出方法(DCFでも、配当還元でも何でも)を用いて判断していればよく、裁判所が別の方法で算出して判断することは取締役の予測可能性を害するため、相当でない」

→有利発行かつ株主総会特別決議なし(実質なしになる、引受人参加や虚偽説明199-3、そもそも不開催)の場合、引受人は公正な発行価額との差額を支払う義務を負う(212-1-1←847)

→会社には現実の資金が払い込まれるものの、差額を損害と認定して取締役も423(また、株代訴847)による損害賠償責任を負う(大阪高判平成11年6月17日判時1717号144頁、東京地判平成12年7月27日判タ1056号246頁)。間接損害と捉えて429や709の追求可能性もあるところだが、東京高判平成17年1月18日は不可能と断じている。理由は(*1)

~2号: 不公正発行 

目的が不公正である場合。一方で、新株発行の目的が資金調達のみではないことは多く、それ以外の目的があることで直ちに不公正とはいえないものの、会社経営者が新株発行を奇貨として株主構成を自己に有利に操作することも許されないことから、「主要目的ルール」が存在する。

主要目的ルール:

①会社の支配権争いが現に生じている場合に、

②会社の現経営陣が自己の地位を保全することを主要な目的として、

③特定の株主の持株比率を低下させるためになされる募集株式の発行を不公正な発行である

→判例:東京高決平成16年8月4日(ベルシステム24)

本件事業計画のために本件新株発行による資金調達の必要性があり、本件事業計画にも合理性が認められる本件においては、仮に、本件新株発行に際し相手方代表者をはじめとする相手方の現経営陣の一部において、抗告人の持株比率を低下させて、もって自らの支配権を維持する意図を有していたとしても、また、前記イ記載の各事実を考慮しても、支配権の維持が本件新株発行の唯一の動機であったとは認め難い上、その意図するところが会社の発展や業績の向上という正当な意図に優越するものであったとまでも認めることは難しく、結局、本件新株発行が商法280条ノ10所定の「著シク不公正ナル方法」による株式発行に当たるものということはできない

地裁決定:東京地決平成20年6月23日金判1296号10頁(クオンツ)

他にこれを合理化できる特段の事情がない限り、本件新株発行は、既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであると推認できるというべきである。…債務者において資金調達の一般的な必要性があったことは否定できないものの、これを合理化できる特段の事情の存在までは認められず、本件新株発行は、既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであると認めるのが相当

公募増資の場合: 平成29年7月19日東京高決

①公募増資は新株の割当先を引受証券会社により決定するから、取締役の意思とは無関係に決まる上、割当先は取締役の意思に従って議決権を行使する保証がないこと

②当然、取締役の意思に反対する株主や第三者も応募することができ、割当を受ける可能性があること

③割当後に市場に流通し、取締役の意思に反する株主が取得する可能性もあること

から、第三者割当増資の場合に比して、取締役に反対する株主らの支配権を減弱させる確実性が弱い。


☆新株発行無効の訴え(会社828-1-2)

まず、出訴期限に注意する。法律関係の早期安定の確保から、効力発生より6ヶ月(非公開:1年)となっている。また、839から将来効、838対世効(→類似必要的共同訴訟)となる。

なお、差止め請求権との関係について、二者は請求の基礎に同一性があるため、差止請求訴訟後、仮処分命令に違反してなされた新株発行について無効の訴えに切り替えた場合、出訴期限を徒過していても、差止請求の時点で訴えを提起したものとみなすことができる。(名古屋地判平成28年9月30日判時2329号77頁)

次に、法は無効原因を特定していないところ、無効原因は判例によって形成されてきたが、取引安全の観点から、制限的に解する必要がある。

以下、列挙。

>無効<

授権枠超過

株主に対する202-4の通知を欠く

非公開会社において株総特別決議を欠く新株発行(非公開会社については、その性質上、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視し、その意思に反する株式の発行は株式発行無効の訴えにより救済するというのが会社法の趣旨と解される)

差止仮処分命令に違反した

公開会社において201-3/-4、募集事項の通知公告を欠く

>有効<

取締役会決議を欠く

公開会社において株主総会特別決議を欠く有利発行

不公正発行


☆新株発行不存在確認の訴え(会社829-x-1)

出訴期限なし(期限のある新株発行無効と異なり、不存在を前提とした訴訟を起こすことが可能である以上、出訴期限の制限には実質的に意味がない。新株発行無効は前述の通り取引安全の観点から期限がある)。遡求効(839/834-x-13)

~新株発行無効は「新株発行されたが、瑕疵がある」場合。新株発行不存在は「新株発行の外観があるが、実体が存在しない」場合である。当然後者の方が圧倒的に重大な問題を抱えている。具体的には、不存在は ・新株発行手続が全くされない中、登記のみなされた場合 ・代表権のない者が株券を独断で発行した場合 などの特別な場合に限られる。


*1

〔1〕会社が損害を回復すれば株主の損害も回復するという関係にあること、〔2〕仮に株主代表訴訟のほかに個々の株主に対する直接の損害賠償請求ができるとすると、取締役は、会社及び株主に対し、二重の責任を負うことになりかねず、これを避けるため、取締役が株主に対し直接その損害を賠償することにより会社に対する責任が免責されるとすると、取締役が会社に対して負う法令違反等の責任を免れるためには総株主の同意を要すると定めている商法266条5項と矛盾し、資本維持の原則にも反する上、〔3〕会社債権者に劣後すべき株主が債権者に先んじて会社財産を取得する結果を招くことになるほか、〔4〕株主相互間でも不平等を生ずることになることである。」 「もっとも、株式が公開されていない閉鎖会社においては、・・・違法行為をした取締役と支配株主が同一ないし一体であるような場合には、実質上株主代表訴訟の遂行や勝訴判決の履行が困難であるなどその救済が期待できない場合も想定し得るから

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