2022年4月19日火曜日

共犯周りの整理

共犯周りを整理します。理論対立も多いところですが、原則判例通説を採用しており、重要な反対説には言及すべきと考える場合のみ触れます。なお、予備校答案等と真っ向から反対する説を採用している場合もありますが、答案内で筋が通らない書き方(極端な話設問1で結果反価値に立ち、設問2で行為反価値に立つ、など)は出題趣旨等でも批判されるところなので、特に関連して出題されるような分野は齟齬がないような説を選択しています。


(短答知識)共犯の種類

共犯にはもともと複数の者が関与することを構成要件上予定している必要的共犯と、それ以外の単独犯で可能な犯罪を複数で共同して行うことで成立する任意的共犯がある。また、必要的共犯は1つの対象、目標に複数で挑む形の集合犯(多衆犯、集団犯)(e.g. 内乱罪)、1対1か1対多が想定されている対向犯(e.g. 重婚罪、賄賂供与罪ー賄賂収受罪)があり、任意的共犯は共同正犯、教唆犯、幇助犯の3種類となる。

・対向犯の教唆犯

対抗犯の場合、相手方はその対応する罪(同罪含)で処罰されることが立法の時点で予定されているのであるから、例えば贈賄者を収賄者の共犯(任意的共犯)として処罰することは許されない。もっとも、対抗犯の一方のみを処罰する規定しかなく、もう一方に罪が無いタイプ、例えばわいせつ物頒布罪に対して「わいせつ物を要求した者」に同罪の教唆犯が成立しないか、問題となる。この点、わいせつ物頒布罪の立法時点で頒布者に対して受領者がいることは当然分かっていたにもかかわらず、あえて受領者を罰する立法をしていないことから、立法者の意思として原則的に不可罰とすべきである。もっとも、受領者が執拗に迫ったり、特に積極的な働きかけをして実行行為者に罪を犯させた場合は、別個に検討する余地がある。このような場合、実行行為者には頒布の意図はなく、所持しているのみであったのに、受領者が強く迫ったことによって、「存在しなかった犯意を生じ」、ついに行為に及んだものであるから、通常のわいせつ物頒布に対する受領者とは異なり、あえて教唆犯として成立させることが適当である。

・同時犯

複数の者が、共謀「なくして」、同一の機会に、同一の客体に対して、同種の犯罪を実行するもの。すなわち、共謀のない(実行)共同正犯的なものである。

・同時犯の特殊ケース:同時傷害の特例(207)

これは、単に同じ機会に実行したに過ぎず、共同正犯の要件たる共謀にかけるから、一部実行全部責任の原則が働かず、個別の実行行為と因果関係のある結果にのみ責任を負う。しかし、傷害罪については行為者間の意思連絡、結果との因果関係の立証が困難な場合が多いため、立証責任の転換として、共謀がない場合でも「共犯の例による」旨規定し、意思連絡について擬制するものである。

この趣旨から同時傷害の特例は、①2人以上の者が同一人に対し②共謀なく③それぞれの暴行のいずれによって傷害結果が生じたか不明な場合に適用される。なお、本条は傷害罪、その結果的加重犯たる傷害致死罪に拡張される(判例)が、強盗致死傷、強姦致死傷等の傷害がくっつく犯罪には拡張しない(判例)。危険運転致死傷罪の論点は法改正でどうなったか分からないが、特に変わってないんじゃないでしょうか(厳罰化されたのが改正の主体なので)。

・教唆犯と幇助犯の錯誤

既に犯意を生じていることを知らずに教唆するつもりで唆したところ、既に犯意を生じていたのを強めたにすぎない(→幇助)場合、より軽い罪である幇助で処罰する。


・間接正犯(×共犯)

まず、間接正犯は共同正犯ではないし、教唆や幇助犯ではない。あくまで間接正犯者が「正犯」であり、(いわゆる実行犯という意味での)実行行為者は単なる道具に過ぎず、無罪である。(簡単な例では毒入りと知らせずに看護師に注射器を渡し、看護師はそのまま気付かずに注射しもってVが死亡した場合の、毒を入れた人物が間接正犯)

・間接正犯、錯誤

被利用者は完全な道具であり、原則として「犯罪を実行している」ことを知っていてはならない。先程の例で看護師が途中で気付いたとして、あえて看護師がそのまま(未必にせよ)殺害の故意をもって注射したとする。この場合、毒を入れた人物は間接正犯だと思っているが、現実には教唆となっている。よって、(おそらく一種の錯誤として)軽い限度の教唆犯を成立させる。(実行の着手を利用者の行為開始とする説に立つと、実行の着手時点では被利用者は知情でないので、間接正犯とする結論もあり得るが、遡って錯誤が生じた場合と同様に考えることで回避する。そうでないと、おとり捜査、コントロールド・デリバリーで厄介な問題を生じる)

・間接正犯、責任なしの実行行為者

犯罪を実行していることを知っていても、なお間接正犯の成立を検討する場合がある。1つは、極度の支配を受けており、実行する以外に手段がないようなときである。これは、反対動機形成の機会が存在しないから、違法性に欠けるとして、間接正犯となる。例としては、逆らったら確実に殺されるような状況で、目の前で第三者を射殺するよう求められた、というような場合である。

もう1つに、意思能力を欠く子供(など)を利用する場合がある。これは、「原則として」実行行為者が「何をやっているか分からない」中、実行しているため、反対動機形成の機会がないから道具性を肯定し、間接正犯となる。但し、これは「善悪の判断ができない」場合にのみ成立するものであって、「刑事無責任」の年齢とは異なってよく、判例ではおおむね14歳を境目としてそれ以上を道具とした場合、「悪いことをしている」ことは理解できるはずであるとし、指示者を教唆犯とする。

・間接正犯、その他のパターン

a. 実行行為者が身分上正当業務行為として行いうることを利用して、正犯者では適法に行い得ない行為を実行させる場合、間接正犯となる(堕胎罪など限定的な場合)

b. 非身分者が身分者を利用して身分犯の間接正犯となるか。→原則としてならない。但し、この論点は虚偽公文書作成罪については判例があるが(非公務員が公務員を利用して虚偽の公文書を作出させた場合、共同正犯とならず、作成権限者でない公務員が権限ある公務員を利用して同様の行為を行った場合、間接正犯とした)、それ以外は寡聞にして知らない。常習賭博者を道具として賭博するとかいうカイジみたいな世界なら問題になったかもしれない。


・共謀共同正犯

判例で明確に認める方向にあるから、今更否定する論述は望ましくない。

①共同実行の意思 ②正犯意思 ③共謀 ④基づく実行

①共同実行の意思 : 2人以上の者が共同してある特定の犯罪を行おうとする意思。犯罪の細部まで認識していることは必要ない。

②正犯意思 : 自己の犯罪として関与したか否か。共犯者のため、と思っていることだけで直ちに否定されるものではない。地位、身分から主体的に犯罪を実行している場合、犯罪の結果としての分け前をもらう約束などで認定する。

③共謀 : 暗黙でもよく、順次共謀でもよく、現場共謀でもよい。なお、共謀の射程の問題として、暴走した共犯者が共謀の範囲外の行為を行ったとき、共犯の範囲から外れることがあり得る。例えば、ゴットン師事例(当ブログでも紹介済み)などが類似の議論である。一方で、共謀の範囲からは一見外れていても、拡大にいたる経緯や予測可能性からして、先程の「詳細に認識している必要はない」というところからも、予定外のことすべてが範囲外というわけでもない。現場ではこの悩みを示しつつどちらかに転ばせれば良い。

もちろん、結果的加重犯については悩むまでもなく責任を負う。

④基づく実行 : 実行して下さい。

・片面的共同正犯

甲は乙と共同で犯罪を実行する予定で参加したが、乙との共謀はないし、乙は参加自体知らなかった(現場共謀もない)場合。共謀がないので共謀共同正犯ではない。

・承継的共同正犯

先行者の行為中、先行者の行為を知りつつ後行者が参加してきた。後行者の責任範囲はどこまでか、という問題。これは犯罪によって結論が異なる。なお、全く認めない説もあるが昭和末期から判例は認めているので(ry。

a. 後行者参加後の暴行が、先行する暴行による傷害を相当程度重篤化させた場合。先行者の暴行による傷害結果について承継的共同正犯を成立「させなかった」

b. (a判決の補足意見)強盗、恐喝、詐欺等では先行者の行為の効果を利用することで犯罪を成立させる場合があり、その場合においては承継的共同正犯が成立する余地があるとした。

b1. 単純一罪の場合、先行者の行為時点では全く犯罪が完成しておらず、後行者の参加後に継続して働きかけが行われ、結果犯罪が既遂となる場合が想定されるので、概ね承継的共同正犯が成立する。

b2. 強盗罪のような結合犯の場合、先行者が暴行、脅迫中に後行者が到着、反抗抑圧状態を利用して財物奪取を共同するようなものが考えられるが、これを認めた地裁判例(東京地判H07/10/09/判時1598-155)がある。これを認める場合には、後行者が積極的に利用したから認めるんだと強くアピールすることが重要となる。

b3. 先行者の行為だけで結果が生じたことが明らかな場合に、後行者の責任が問題となる。例えば、強盗致傷の先行者がおり、既に致傷結果は生じている。そこに来た後行者は反抗抑圧状態を利用して財物奪取を行った。このとき、成立するのは先行者に「強盗致傷」、後行者に「強盗」である。対して、先行者が致傷していて、後行者が参加後更に暴行を加え、そのどちらの暴行によって死亡したか分からない傷害致死の場合、傷害致死の承継的共同正犯を肯定した(名古屋高判S47/07/27/刑月4-7-1284)。

他には、暴行の結果的加重犯として行われる傷害罪について、先行者の暴行で傷害結果が生じており、後行者参加後の暴行は軽く傷害の結果は生じ得なかったという場合には承継的共同正犯を否定した事例、理論、量刑上の問題にすぎないが(罪名は変わらないが)先行する暴行で傷害結果が生じており、後行者参加後にも傷害の可能性がある暴行があった場合、先行者による傷害として分離できるものは因果関係がないので、後行者との承継的共同正犯の範囲外とするものがある。なお、ここで軽重を知ることができないときは207同時傷害特例があるので、結局多くの場合罪名は問題とならない。


・過失犯の共同正犯

指揮関係や同僚関係にあって共同の注意義務を負っている場合に想定されるが、これを共同正犯と真っ向から認める判例があるといえるかは微妙である。ともあれ、この場合はどちらにも注意義務、結果回避義務を肯定できるはずであるから、同一の物に対する注意義務を怠ったというだけなので過失の共同正犯を認めなくても認めても致命的な違いは出ないと思う。


・共同正犯の防衛

侵害者それぞれについて要件を満たすか検討する必要がある。甲の侵害が急迫していても、乙の侵害は急迫していない可能性はある。

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