均等侵害の答案構成例です。侵害者Y、特許権者X、特許権P、侵害製品の製品名Y1、特許製品名X1、とします。
XはYに対して、自己が有する特許権Pを侵害するとして、Y1の販売の差止請求(100)ができるか。
(1)侵害行為
Xは、特許権Pの特許権者であるから(特許権について争いはないとする)、その実施品たるX1について、業として実施する権利を専有する(68)。特許権Pの特許請求の範囲(36-5)には、「~~~~~」という構成要件Aが含まれる。そして、Yは「~~~~~」のみを交換したY1を販売しており、「業として特許発明の実施」(68/2-3-1)をしたとして、特許権Pを侵害したという主張があり得る。
(i) Y1の「~~~~~」が全く同じ互換部品である場合
このとき、Y1はすべての構成要件においてX1と一致し、Y1の販売は文言直接侵害となる。
(ii) Y1の「~~~~~」が「~~~~!」である場合(均等侵害)
特許出願時において、あらゆる侵害形態を想定してクレームを記載することは現実的でなく、ごく僅かな相違によって特許権侵害が否定されるのであれば、特許権者の保護に欠ける。一方で、クレームから予測できない範囲にまで無限定に拡大すると類似の技術を全く利用できなくなってしまうため、クレーム内容と実質的に同一の範囲の技術に限定して侵害を認める限りにおいて、第三者の予測可能性を害さないことから、保護範囲に含める。
以上より、①相違する構成要件が発明の本質的部分でなく、②相違部分を対象製品におけるものに置き換えても特許発明の目的を達し、かつ同一の作用効果を奏し、③当業者にとって、対象製品の製造時に容易に想到できるものであって、④侵害製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一または公知技術から容易に想到できたものではなく、⑤侵害製品が特許出願手続きにおいて意図的に範囲から除外されたものであるなど特段の事情がないとき、侵害製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属すると解する。
<簡単な整理>
①非本質的部分の要件。発明のコアを入れ替えればさすがに別物でしょう、ということ
②置換可能性要件。これも入れ替えたら本来の機能を果たさないようなものであれば別物。
③容易想到性要件。入れ替えること自体が発明レベルの置き換えなら別物。
④X1が無かったとして、Y1がX1出願時に代わりに出願されていれば特許が取れるようなものであったか、というイメージ。あるいは、X1がなくてもY1を同業者ならだれでも簡単に思いつけるようなものであったか、ということ。
⑤file wrapper estoppel(包袋禁反言)のような話。あえて外したものを保護するのは話が違う。
<以上>
(2) 反論(消尽)
(ア)規範
PはXがX1を販売したことにより消尽し、最早PによってY1製品の差止請求は認められないという主張が考えられる。
消尽について、明文で規定されていないためその根拠が問題となるが、特許製品の円滑な流通保護と、特許権者は自らによる販売に加え再流通からも利益を得る必要はないという点から、特許権者によって適法に流通に置かれた真正製品については、特許権が消尽し、その後の流通、譲渡について特許権の行使はできないものである。
消尽が認められるとすると、本件(文言直接侵害/均等侵害/均等侵害不成立の3パターンを考える)でも特許権Pは消尽したといえ、Y1製品の差止は認められないという結論にみえる。
しかし、上記消尽の根拠からして、侵害製品が当該特許製品と同一性を欠くような、「新たな製造」といえる場合には、特許権者による新たな販売を阻害するから、消尽を認めない。具体的には、①当該特許製品の属性、②特許発明の内容、③部材交換の態様、④取引の実情等の総合考慮において、実質的に「新たな製造」といえるかを判断する。
(イ)あてはめ
①について、もとから(社外品でないにせよ)交換が予定されている部品であるか。②について、別の製品と呼べるほど重大な部品を交換していないか。特に、本問のように均等侵害とセットになる場合は均等侵害の成否と原則一致させるほうが矛盾がない。あえて違う方向にする場合はよほどの根拠があるときに限る。③その交換が通常想定され、かつそれによって特許製品の耐用年数が特に伸びたりしていないか。④「写ルンです事件」との整合性から、一般に消耗部分を入れ替えて使うことを想定せず、消耗品とともに廃棄することが通常である製品ではないか。
以上の基準で事実を配置し、判断する。
(ウ)別パターン・「再利用禁止の文言」
再利用を禁止する表示を行っていた場合、消尽との関係で効力があるか。このような特約(や表示)がある場合でも、特許権者は特許製品を流通においた時点でその対価を回収する機会が与えられており、重ねて次の流通を制限することは許されないと考えられるから、消尽の趣旨はなお及び、消尽が適用されるべきである。なお、その「再利用禁止の文言」によって再利用を禁止する目的が特許権侵害による経済的損失を防止する目的でなく、当該特許製品の性質に基づくものである場合(衛生面など)であっても、特許法において規制される性質のものではなく、民法上の問題として扱われるべきものであるため、消尽の適用如何を左右するものではない。
以上
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