2022年4月27日水曜日

特許法における発明について~①自然法則利用性

 特許法の勉強をするにあたって、複数種類の「発明」が出てきます。今回はそれを簡単に整理しておきましょう。今回は発明の要件のうち自然法則利用性について整理します。


そもそも発明とはなにか

発明とは、特許法2条1項から、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうとされ、そのまま①自然法則利用性、②技術的思想性、③創作性、④高度性が要件とされています。ただし、これらの要件についてきっちりと区別して当てはめを行うことは実益に乏しいといわれています。

①自然法則利用性

自然法則に基づいて動くコンピュータを利用したプログラムでも認めよう、バイオテクノロジーも保護に値するという価値判断が先行し、ある意味「自然法則そのもの」という本来特許として認められないであろうものでも保護する、というふうに本来の定義からは乖離してきていることも事実です。

実際の判断にあたっては、物理法則や数学的な法則(相対性理論とか、三平方の定理とか)、自然法則に反するもの(永久機関など)、人為的取りきめ(ゲームルール)、経済法則(株価予測など)を除外するに限られることとなります。経済法則もあるところまで行くと自然法則のようにも思えてきますし(神の見えざる手とか、コンドラチェフの波とか)、前述のように自然法則そのものといえばそのものであるバイオテクノロジー関係(鯉に特定の餌を与えて発色を調整する方法や、特定のウイルスにある物質を添加すると狙った動作をするとか)は発明にしよう、という話があるので厳密に考えると難しいです。

判決で限界例となっているもの:

人為的取りきめについて

①切り取り線付き薬袋(自然法則利用性肯定)(なお、進歩性要件不充足で結局拒絶されている)

問題となった物は、薬袋が切り取り線で上下に分かれていて、上側に氏名等の個人情報が印刷され、下部に薬の内容が印刷された上、薬が封入されます。これによって上下で切り離せば捨てたときや落としたときでも、氏名と薬の内容(疾患が特定される可能性もある)が紐づけられることを防げる、というものです。

この袋を利用するにあたって、袋に種々の情報を印刷するのは調剤薬局、上下をちぎって利用するのは患者です。すなわち、これら2つの行為は人によって行われ、「人に対して利用方法を指定している」ルールに過ぎないため、自然法則利用性がないのではないか、ということが問題となりました。本件について、知財高裁は一部に自然法則利用性がないものが含まれていても、全体として自然法則利用性があれば足りるという規範を提示しました。

あてはめにおいて、この単純方法の発明では、切り取り線の上下にそれぞれ情報を印刷し、利用時に切り離すことで個人情報保護という課題を解決する方法という特許であるので、その全体として自然法則を利用しているといえ、一部を人が行っていても良いという判断を示しました。

この判決で学ぶべきは「一部に自然法則利用性がないものが含まれていても、全体として自然法則利用性があれば足りる」という規範であって、正直全体として自然法則利用性があるかの判断は未だに納得できていないのですが、前述のように自然法則利用性の範囲は(異常なまでに)拡張されているので、明らかにダメなやつを除いては利用性があると考えておくほうが良いように思います。でないと深淵にハマります。

②暗記用学習教材

この判決の逆のような判決もあり、暗記用学習教材事件において、一部に自然法則を利用していても、全体としてみると人為的取りきめに過ぎないとして認めなかったものです。この判決はより分かりやすく判断の指針を与えてくれていて、「「発明」といえるか否かは,前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべき」と示しました。

この教材は、虫食い式の暗記教材の一種で、例えば「兵庫県神戸市」という文字列から「兵庫県○戸市」と「兵○県神戸市」という2つの虫食い文字列を作って解くことで、従来の虫食い式では虫食いをしていない部分(前者では兵庫県の部分)の記憶が薄れがちという課題を解決するという、暗記学習の教材(物の発明)及びその製造方法でした。

しかし、裁判所はこれについて「本願発明の技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討」した結果、「暗記学習用教材という媒体に表示される暗記学習用虫食い文字列の表示形態及び暗記学習の対象となる文字列自体を課題を解決するための技術的手段の構成とし,これにより,文字列全体の文脈に注意を向けた暗記学習を効率よく行うことができるという効果を奏するとするものである。そうすると,本願発明の技術的意義は,暗記学習用教材という媒体に表示された暗記すべき事項の暗記学習の方法そのものにあるといえるから,本願発明の本質は,専ら人の精神活動そのものに向けられたものであると認められる。したがって,本願発明は,その本質が専ら人の精神活動そのものに向けられているものであり,自然界の現象や秩序について成立している科学的法則,あるいは,これを利用するものではないから,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しない。」

としました。まとめると、本教材の意義を「暗記学習用の方法」であるとし、本質は「人の精神活動そのもの」に向けられているため、自然法則利用性がないとしました。


③(特許登録)復習タイミング付箋

そんな中、つい最近復習タイミングを教えてくれる付箋(神戸新聞より) が特許取れたらしいんです。どんなものかはリンク先を参照していただくとして、復習して記憶の定着をするなんて精神活動そのものに向けられた、反復学習用の方法じゃないですか?その上、ご丁寧に学習者が切り取るというルール工程も含まれています。総復習のような特許ですね。

これが仮に裁判になれば覆る可能性もあるとはいえ、暗記用学習教材を否定、薬袋を肯定、付箋を肯定、とすることが同時に成り立つと考えると、以下のような改良で暗記用学習教材も特許取得が可能になるように思います。

科学的知見に基づき3文字目と7文字目を穴あけすると暗記に良い(そんな研究と事実があるとして)ことを利用して機械的にその部分を穴あけして暗記用に提示するパンチカード様窓あき用紙と平文を印刷するテンプレート用紙からなる暗記用学習教材

これだったら特許が取れたかもしれないですね。ともあれ、これを答案戦略上活かすとすれば、・人為的取りきめが工程に含まれる場合でもOKであると触れる ・全体として精神活動に向けられているかの判断は難しく、基準も明確でない上、論文試験の中でそこまでの判断をさせることは考えにくいので、ごまかしつつ総合考慮したらOKでした!と書いておく という感じでしょうか。

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