2023年7月17日月曜日

民法の学びなおし ~第2回「民法の構成」

民法の学びなおし 第2回として、「民法の構成」をお届けする。ちなみに、各回1000文字(Wordの標準設定でちょうどA4 1ページが埋まる程度)を目安に、さっと読み切れる長さを意識して執筆している。


民法は4桁条もある異様に大きな法であるから、その構造を把握することも他の法律に比べて重要である。まず、ざっくりと①総則 ②財産法(物権・債権) ③家族(親族・相続)と分かれる。

これらは、更にパンデクテン方式という仕組みで並べられていると説明されるが、これはドイツ民法に由来する考え方で、共通部分→個別部分(総論→各論)という順番で並べられていることを意味する。なお、民法以外の法律に目を向けてみると、例えば知的財産権法分野では、このパンデクテン方式が採用されていない(多くがアメリカ法由来のため)。

 

簡単にそれぞれを説明すると、①総則では、民法全体に流れる共通事項を定めている。例えば、第3条「私権の享有は、出生に始まる。」は、いつから民法上「人」として扱われるのか?ということを定めており、財産権の帰属主体としての前提となる、という意味で②に影響するし、相続の主体であったり、出生時点で親子関係が決定したり、という意味で③にも大いに影響がある。こういった部分で、①総則は民法全体の総論、共通部分として前にくくりだされているのである。

 

次に②財産法であるが、これは文字通り財産に関する規定である。財産を大別するとモノとカネになるため、それぞれ物権と債権に分類される。本当の財産は人と人とのご縁です、とかいうセリフは民法の世界にはない。将来の契約相手になれば財産法の規律する世界に入ってくるので、早いこと契約に結びつけて欲しいものである。

 

さて、最後に③家族法。身分法という言い方もされたりする。婚姻や子供といった家族の形を規定するのが親族法分野であり、相続に関して規定するのが相続法分野である。こうしてみると、相続法は身分法の中にありながら、基本的にモノとカネの話をしているという点で異質であり、そういった面から、親族法と切り離されて考えられている。昨今話題の同性婚についても、憲法の改正(ないしは解釈変更)はもちろんのこと、現実問題として現在の民法は同性婚を想定しておらず、もっといえば基本的に男女がくっついて子供を作ることが大前提になっているため、大幅な改正が今後なされることが予想される。

 

コラム2

同性婚の話を少し書いたが、個人的な話、同性と同棲している身からすると、婚姻できるようになれば財産上のメリットが大きい。一方で、これら財産上の恩恵は将来の金づr……日本の担い手である子供を産んでくれることに対するものであるという一面は無視してはいけないと考える。婚姻を前提とした社会の仕組みで、子供をつくる機能に関係のない箇所(入院時の面会など)は一刻も早く我々にも開放してほしいが、扶養控除まで頂こうという厚かましいことは到底私には申し上げられない。と、イチ当事者の私見を述べておく。

民法の学びなおし~第1回 「民法とは、私人間の権利義務関係を規律する法律である」

 司法試験から離れてやがて1年。法律を使って仕事をする一般社会人として半年以上やってきた中で、こんな説明で最初から勉強したかったな、と思うことはよくある。ならば書こうというもので、実務の中でもしっかりと復習しながら知識を維持したいという私利私欲も兼ねて、連載の形で「民法の学びなおし」として民法の解説を書いてみることとした。失踪しないことをお祈りいただければ幸いだ。

本連載は、初学者、及びリカレントに向けた解説として、若干学術的な正確性を犠牲にしつつ書いた部分もある。厳密さを省いた箇所には極力自学自習への案内を入れようとは考えているが、不十分な箇所もある。知識のある諸兄にはご容赦願いたいと同時に、ご指摘もお待ちしている。

では、以下、第1回「民法とは、私人間の権利義務関係を規律する法律である」をお届けする。


民法とは、私人間の権利義務関係を規律する法律である、という使い古された表現があるが、他の法律との差を考えてみると、より明確になるといえよう。法律という世界のプレイヤーとして登場するのは、過去の歴史的経緯等から、①私人 ②公権力(国・行政主体など)に大別される。更に、それらが①→A.自然人(ひとまず、人間と理解してよい) B.法人(代表的なものが株式会社である)と②→C.D.地方公共団体 E.裁判所 F.警察 といった形で細分化して説明される。これらのプレイヤーのうち、誰と誰の関係を決める法律か、という考え方が、「民法とは、私人間の権利義務関係を規律する法律である。」という理解につながるわけである。

すなわち、①私人と①私人の間の関係を規律する法律であるのが「民法」であり、②公権力(特に国)を縛る法律が「憲法」であり(異なる理解もあり得るが)、①私人に対して②公権力(特に国)がどのような刑罰を課すことができるかを定めたのが「刑法」、①私人に対して②公権力(特に裁判所や警察)が何をしてよいのか定めたのが「刑事訴訟法」、という形に整理されるのである。更に言えば、B,法人とB,法人の間の権利義務関係を規律したり、そもそも法人とは人間が考え出した概念であるから、法人のなんたるかを定めたりするのが「商法」や「会社法」である。

このように、誰がプレイヤーであるかで法律というものは大別されているといえる。このような分類が当てはまる法律は多いが、もちろん、それ以外の分け方も必要となる。例えば、民法の特別法であるところの「消費者契約法」や、民法/刑法の特別法という捉え方も可能な「著作権法」など、適用対象(どんな取引か、何を目的物としているか)に着眼しなければ分類できない法律もある。

閑話休題、民法というものは、私人間の権利義務関係の基本法であって、その内容は特定の取引に限定されるものではない。すなわち、少々乱暴な言い方をしてしまえば、民法の適用がない「契約」というものはありえないのである、といえる。

 

コラム1

すべての契約に民法が適用されると言うならば、②公権力と①私人の契約、例えば市役所の建物建設業務委託契約はどうなるのか、という疑問が湧いてこよう。おそらく、直感的にも民法が適用されないわけはないと考えるだろうが、そのとおりである。

この場合、②公権力といえども、①私人(法人)と同じ立場で契約しているものである、という考え方がなされる。地方公共団体としてもつ、私人に対する「特別な権能」を行使しない場合であれば、基本的に①私人に準じるものと考えるべきだろう、という当たり前の考え方による。