2022年1月2日日曜日

特許法:試験研究実施の簡単な解説

特許法トピックシリーズです。今日は試験研究実施について。論点としてジェネリック医薬品の問題、リサーチツールの問題を取り上げてみました。 

試験研究実施(69-1)

特許発明を業として無断実施しても、試験研究実施であれば特許権の効力は及ばない

特許法の目的たる発明の奨励(1)から、試験研究による発明促進という必要性と、試験研究であれば特許権者への経済的打撃は小さいという許容性から、試験研究実施(69-1)は適法となる。この趣旨から、技術開発目的である(利潤追求目的でない)ことが必要となる。

~例外(最判H11/Apr./16/民集53-4-627/膵臓疾患治療剤事件)[1]

ジェネリック医薬品の製造会社は後発医薬品とはいえ、安定性試験等の試験を発売前に実施し、薬機法[2]141項の承認を得る必要がある。メーカーとしてはこの試験は発売前、すなわち特許期間中に行ってしまいたいという需要がある一方で、「業として」「実施」するという評価は免れないため、無断で行うことは出来ない。そこで、本条の試験研究実施とした。しかし、試験研究実施は技術の進歩のために特別に許可されるものであるため、ジェネリック医薬品という特段進歩を予定しない内容かつ、最終的には利潤追求を目的とした研究開発のために用いることはできないのではないかという反論が考えられる。

この点について、最高裁は「特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用することができ、それによって社会一般が広く益されるようにすることが、特許制度の根幹の一つである……もし(試験研究実施に当たらないとすると)特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となる。これは前示特許制度の根幹に反するものというべきである。」として、肯定の立場を明確にしている。[3]

~リサーチツールの使用

リサーチツールとは、PCR法や実験用ラットなど、研究室で実験に用いるツールを指す。これが特許を受けている場合、このツールを産業における研究開発に用いることは試験研究実施として許容されるか。

確かに技術の進歩に資するものではあるが、もともと研究の手段として使用されることを目的として発明された技術であることから、研究開発に利用する場合に特許権が及ばないとするとおよそリサーチツールの発明は特許権の効力が実質的にないことになってしまう。また、69-1は特許発明自体の分析改良を中心とした研究開発について適用されるものであるところ、リサーチツール自体の改良を目的として試験研究実施をすること自体は許容されるが、リサーチツールを用いて別個の技術を開発する際にまで同条の趣旨が及ぶものではない。

なお、汎用性が高く、代替技術の乏しい基礎的なリサーチツールに関しては特許権の範囲を制限するべきである、という議論があるが、それは69-1の問題として捉えるべきではなく、もっぱら立法の場や、現場レベルの調整やFRAND宣言類似の考え方など対応は複数考えられるが、ともかく別途考慮すべき話であろう。



[1] 島並良・上野達弘・横山久芳「特許法入門」p300~p304

[2] 司法試験で書くことは少ないだろうが(行政法で出ないとは限らない)、薬事法は薬機法になっているのでうっかりに注意

[3] 否定説としては、技術進歩に趣旨の重点を置き、先の規範を貫徹すれば否定説になるが、明確に判例に反することになるので採用はオススメしない

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