2022年5月19日木曜日

電子計算機使用詐欺罪【話題のやつ】

 日本全国で突然話題となった電子計算機使用詐欺罪。直近で話題になったのは、出前館の初回クーポンを何アカウントも発行してたくさん手に入れた人だったように思います。この犯罪、名前からして「詐欺罪」の特殊類型なのはお分かりかと思いますが、電気計算機、すなわちパソコンとかスマートフォンとかを利用すれば直ちにこの犯罪になるというわけではないので、意外とややこしいものなのです。今回は、詐欺罪の諸類型との差を踏まえて、本罪について解説したいと思います。

 元となる通常の詐欺罪(刑法246条)について、これは優良な解説がいくらでもあるところなので、基本は別途検索していただければと思います。今回の対比において重要な要件は「人を欺いて」「財物を交付させ(1項詐欺)」「財産上不法の利益を得(2項詐欺)」の3点です。順にみていきます。

① 人を欺いて
 一般的にイメージする「詐欺師」がするような行動と思えば大丈夫です。細かく分解すると、人を騙して、騙された人が、騙されなければ渡さなかったであろう金銭を渡してしまう状態にする行為を指します(専門的には→欺罔行為によって錯誤に陥れる)。
 オレオレ詐欺(今は母さん助けて詐欺でしたっけ?)を例に取ると、人を騙す行為は「オレ=息子だと嘘をつくこと」で、被害者はそれを信じて=騙されて=錯誤に陥って、本来息子でなければ渡すはずのない金銭を渡してしまうもの、ということでこの要件を満たします。
 電子計算機使用詐欺との差はまずここにあって、電子〜の方は騙された人がいないのです。どういうことかと言うと、電子〜が想定するのは自動で処理する機械に対して嘘をつく行為ということです。すなわち、機械に嘘を入力して、機械がそれを信じて、本当の情報を入力されていれば.....と要件が変わるわけです。
 出前館の事件で言えば、出前館のクーポン発行システムは新しいユーザであればクーポンを発行しますから、新しいユーザだと嘘をついて、システムがそれを信じてクーポンを発行し、クーポンを受け取るとこの罪になるというわけです。

② 1項詐欺と2項詐欺
 普通の詐欺罪には「業界用語」でいうところの1項詐欺と2項詐欺があります(条文がそれぞれ246条1項と2項であることから)。1項詐欺は、①で扱ったオレオレ詐欺のように、「財物を交付させる」ものを指します。典型的には金銭でしょう。詐欺にあって騙し「取られた」!といいますが、この場合は1項詐欺でしょう。
 では、2項詐欺とは何か。これは、「財産上不法の利益」を得ることです。噛み砕くと、本来払わなければならないものを払わずに済むようにするとか、借金を肩代わりする契約をさせるとか、直接「財物」を交付しないものをいいます。典型例は、財布を忘れたから取りに戻ると言って逃げる食い逃げ(払わなければならない代金を、嘘をついて踏み倒した)や、嘘をついて土地の持ち主に土地の登記を移させることなどがあります。
 電子計算機使用詐欺は、「財産上不法の利益の得」(または他人にこれを得させ)た場合に成立すると書いてありますから、2項詐欺罪の仲間ということになります。

 以上整理すると、電子計算機使用詐欺罪(246条の2)は、①機械に嘘を入力し、②機械がこれを信じて(ここは自動で行われることが想定される)、③財産上不法の利益を得た者に成立する罪ということになります。
 (法律的に詰めた話をすれば、財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、という要件がありますが、今回は嘘を入力し、機械が信じて、という形に詐欺罪に寄せた理解を示してみました。大筋では上記のまとめで良いと考えています。)

 発展的な話の前に本件についてみてみると、本件では
①「お金を他の口座に振り込む権限がないのに、正規に手に入れた金であるかのように嘘をついた」
 通常、自身の口座のお金をどこか振り込んだりすることは、そのお金を扱う正当な理由があるはずですから、触ってはいけないお金ならば、それを自分の金として移す指示をすることは、銀行のシステムに「嘘をついている」と理解します。
②「機械が信じて」
 前述の通り、利用者の口座からどこかの口座に移す行為を全て疑って手作業で確認していては、現代の銀行は仕事になりませんから、機械は口座の持ち主だと確認された人からの振込指示には従うでしょう。
③ 「財産上不法の利益」
 本件ではデビット利用ではお店の口座に対して、それ以外のカジノの利用ではカジノ管理の口座(多分?)に振り込ませていますから、本来得ることができなかった財産上の利益を、嘘をついて口座から振込指示をさせることで得たといえるので、財産上不法の利益となります(この要件絡みで発展的な話題がありますが、後述します)。

以上のことから(主家的要件である故意はあるとして)、本件は電子計算機使用詐欺罪に該当するということになります。


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発展的話題① お金の使い方
 誤振込を受けた口座残高を他人の口座に振込む形で利用した本件は、電子計算機使用詐欺罪に該当します。一方、本件から離れて「引き出し」をした場合はどうでしょうか。
 引き出しには2種類方法が考えられ、1つは窓口です。窓口では行員が絡みますから、騙す相手は行員です。よって、詐欺罪が容易に成立します。対して、ATMやCD(死語)から引き出した場合はどうでしょう。これは、電子計算機使用詐欺の③「財産上不法の利益」を得る行為ではなく、財物を交付されていますから、該当しなくなります。この場合は詐欺罪の類型ではなく、窃盗罪が成立すると考えられています。

 以上全てを整理すると、誤振込と知ってした前提では
窓口引き出し/窓口振替→詐欺罪
ATM引き出し→窃盗罪
ネットバンキングやATMで振替指示→電子計算機使用詐欺罪
となります。

発展的話題② 民法上の問題
 これは別ポストにする予定ですが、簡単に。本件では代理人弁理士や本人が「全額使ってしまって返せない」と述べているそうです。これはどういうことかというと、民法上理由がないのに得てしまったお金は「不当利得」といい、当然返さなければなりませんが、「費消」した場合は現存利益の返還でよい、という仕組みによります。
 この費消後の現存利益は、単に使ってしまえば終わりではなく、換価物があればそれにも及ぶとされています。すなわち、期せずして降ってきた4600万円でロールス・ロイス カリナンを一括で手に入れたとすると、このロールス・ロイスもまだ「手元に残っている」現存利益とされます。そんなことを学んで頂きたくはないですが、なるべく返したくない場合、価値のあるものに交換せず、全額コト消費に使ってしまいましょう。ギャンブルでなくても、高級温泉旅館でほっこりしてもOKです!(OKではない)換価物についてのさらなる検討もありますが、それは次の記事に譲ります。

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