2022年5月8日日曜日

著作権法ー著作物該当性

 著作権法を使う中で、最初に判断することは「著作物該当性」です。著作物に該当しなければ、その後の議論を待たずして適用外となることは当然であり、答案上はあまり争いがないか、結局認められる場合が多い要件ではある一方で、現実世界では「これって著作物?」と聞かれたら詰まってしまうような問題も多いところですから、順を追って著作物該当性を検討してみます。


 著作物該当性は「著作物」の定義(2条1項1号)「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」から、①思想感情、②創作性、③表現性、④学芸性の4要件があるとされています。また、10条1項各号に著作物が例示されていますが、これは類型ごとに特殊な権利が認められる場合に役立ってきます(映画の著作物など)ものであって、ひとまず2条1項1号に該当するかを判断することは重要です。

 なお、10条2項(雑報、時事報道)、10条3項(プログラム言語、規約、解放)は「著作物でない」とし、13条(法令、告示、訓令、通達、判決、決定、命令、公的翻訳物、編集物)は「著作物であるが、権利の目的とならない」とされています。前者(10条)は確認規定とされ、そもそも②創作性要件に欠けるものであって、後者(13条)は国民に広く知らしめる必要性から、意図的に除外したものである。もっとも、この「法令」を分かりやすくまとめ、情報を付加した「判例六法」などは編集著作物である(タウンページ事件も参照のこと)。


 ①思想感情要件

=人間の精神的活動(からくるものであること)

 単なる事実、自然物、人間以外の動物によるもの(サルがスマートフォンを奪って撮った自撮り写真が有名)が除外される。

 近年問題となっているのは、「AIによる創作物」であり、原則これは①要件を満たさないとされる。これは今後議論の余地はあるが、現段階ではこうなっていると納得しておきたい(特に、試験前に気になって考え始めてはいけない)。

 答案戦略上、上記3つに当てはまらなければ気にする要件でもない。当落予想表事件(選挙の当落予想を○△▲の3つで行った当落予想表について、当落予想も人間の知的生産活動の結果であるとして①要件を肯定した)を参照のこと。


②創作性要件

=個性が現れていること

 表現の「優劣」や「価値」「芸術性」は要求されない。幼稚園児の落書きから、超有名芸術家の作品まですべて法のもとに同価値である。なお、データベース、プログラムの著作物の「創作性」=「個性」とは何か?について、これらはむしろ合理化の末没個性的であることが求められる場合すらあるが、書き方やまとめ方に「選択の幅」がある中でその方法を選択したことに創作性を見出す「選択の幅理論」(中山信弘先生の説)が説得的。

 ラストメッセージin最終号事件(雑誌の最終号に載っていた編集部からの挨拶文をまとめた書籍において、その載せられたメッセージに著作物性があるか問題となった。休刊廃刊の告知、感謝やお詫びの念、編集方針の骨子、再発行の予定、同社関連雑誌の宣伝は当然含まれるもので、これをありふれた表現で記載したものは「創作性がない」。一方で、それ以外のメッセージが含まれているようであれば、創作性は肯定されるとした。)を参照のこと。

 版画写真事件(平面の芸術作品を撮影した写真に著作物性(創作性)があるか問題となった。平面の芸術作品について(記録として撮影するに)は正面から撮影する以外に撮影位置は正面以外なく、その他撮影者が何かを付け加えるものではないから、原版を忠実に撮影するものである限り、創作性がない。)も参照のこと。この判例に対して、祇園祭写真事件(祇園祭を撮影した写真について、確かに同じ場所で撮影すれば誰でも同じ作品を作りうるとしても、動きのある祭りをどこでどのように撮るかというところ、そして露光時間やレンズ、フィルムの選択にも撮影者の創作性は現れるから、創作性がある。)との対比も検討のこと。

 

③表現性

=表現アイデア二分論から、「表現」のみを保護する

 昨今、物語の構成が似ているとしてパクリだと問題になることも多いが、これは「アイデア」に過ぎず、著作権法によって保護されるものではない。例えば、我々の世界の飲食店が突然異世界に繋がり、異世界のお客さんにこちらの料理を提供して喜ばれ、交流を深める話という点で同じ異世界居○屋と異世界○堂があっても問題ないし、異世界転生するきっかけがトラックに轢かれがちであっても問題ない。とはいえ、これは程度問題に行き着くものであり、究極的にはキレイに二分できるものでもない。また、続編を作ることも許容される(著作権法上は)。アルセーヌ・ルパンとルパン三世とルパンの娘がいてもいいのである。この点については、scene a faireの理論(ありふれた情景の理論)として取り上げられる場合があり、文芸作品を中心に、「表現」であるとしても、テンプレ描写については保護しないという例外を認めるものである。

 江差追分事件(ノンフィクション小説を原作としたNHKのドキュメンタリーについて、本に依拠してナレーション等を作成したとしても、表現上の本質的な特徴を直接感得できない限り、翻案権の侵害にはならず、また、流れ自体は「アイデア」であるとした)を参照のこと。

 釣りゲーム事件(GREEの釣り★スタとDeNAの釣りゲータウン2について、三重円を魚が動き、中心で押すことで魚を釣るということは「アイデア」であり、三重円を用いることに他の釣りゲームとの差、独自性があるとしても、ダーツや弓道等同心円を的にすること自体はアイデアの範疇であるとした)も参照のこと。

 金魚電話ボックス事件(電話ボックスに水を満たし、金魚を入れた作品と、それを真似した作品について、電話ボックスに水を満たし、金魚を入れることまではアイデアとしたが、受話器を固定しそこから気泡を発生させ(たように見せ)ることには創作性があり、全体として創作性ある芸術作品といえる)も参照のこと。特に釣りゲーム事件と金魚電話ボックス事件をみると、いかにアイデアと表現の分離が困難かが理解できる。電話ボックスに金魚を入れるということ自体が表現でない理由はイマイチ分からない……。創作性は類似性判断の基礎にもなり、本事件でも創作性のある部分についてのみ類似性判断、依拠性判断が行われているから、重要な判断ではある。答案上は「創作性あり」「なし」の判断の是非はともかく、「あり」としたなら類似性判断をし、「なし」としたなら判断しない、という一貫性のほうが重要かと思われる。うっかり判断しがち(2敗)。


④学芸性

=知的・文化的精神活動の所産全般(当落予想表事件)

こじつけでも良いので、大体どれかに当てはまることになる。また、どれに該当したとしても「応用美術」に絡まない限り意味はない。

 ・応用美術

 本ブログでも以前取り上げた「タコの滑り台」判決でも登場した応用美術。この概念は法律上明文で示されたものではないが、判例上、学説上はおおよそ認められているもので、鑑賞性と実用性を同時に兼ね備えているものを指す。対して、純粋に鑑賞するしかないものは「純粋美術」と呼ばれ、一般的な絵画や彫刻などが含まれる。応用美術の範囲は広く、究極的にはどんなものにも鑑賞性を見出すことは可能ともいえる(車や電車、パソコンといった一般人にとってはほぼ実用性の塊のようなものでも、そこに美を見出す人はいる)から、この世のすべての実用品が応用美術といっても過言ではない。

 応用美術を含む実用品は工業デザインを保護する意匠法の管轄であり、原則として著作権法の管轄ではない。一方で、実用性はあるものの、美術品としての扱いがメインとなる一部の陶磁器や宝飾品、のように、著作権法で保護したほうが良いものも存在する。特に、一点モノの壺などはほぼ当然に美術の著作物であると解される。すると、一番問題となるのが「量産品」であってそれなりに「鑑賞性」もある「応用美術」である。

 学説では色々な議論がなされているが、判例では「純粋美術同視説」「分離可能性説」といった考え方が基本となっている。これは、それ自体鑑賞対象として一般的なものを保護し(人形や仏像彫刻など)、それ以外のいわゆるプロダクトデザインは原則排除する結果となる。対して、TRIPP TRAPP事件はこの流れから外れており、「分離可能性説」を否定(実際分離して考えるのは難しいでしょ?という理由)し、保護の対象を広げた。現状この判決だけが浮いているため、答案では知っていることを示しつつも採用する必要まではないと考える。


0 件のコメント:

コメントを投稿